@ そして3ターンが開始され、嘘喰いは「13」をコール。
ここで認識していただきたいのは、このコールは嘘喰いにとって最大のギャンブルだったということです。それは捨隈の珠が「8」だった時どうなるかという検証をすればわかります。
マルコからミスナンバー「8」をゲットした嘘喰いは、捨隈のナンバーを「8」「9」だと確信します。しかし、そのどちらであるかは絞り切ることはできません。
「13」をコールした後、本編では捨隈が「9」だったから嘘喰いのナンバーを「6」「7」の二択に絞りました。そして「15」をコールし、はずしても「16」で確定するという展開になったのです。
もしこの時捨隈が「8」だったとしたら、嘘喰いの「13」コールで捨隈は正解パスワードを「15」に確定し、それをコールしてはずすという展開になったでしょう。捨隈にとってもこの時点で嘘喰いのナンバーが「6」「7」ではないと気づいたはずです。
「勝負に絶対はない。それがギャンブルだ。13は俺が導き出した最も勝算のあるカードだった。自信はあったが絶対じゃあない。俺は正直不安でいっぱいだった。13を押す時も13をはずしたその後も、もしかしてお前が、本当は俺が6・7ではないと疑いを持つんじゃないかと」
24巻の嘘喰いのセリフですが、もしこの展開を指してのセリフだとするなら、自分の演技を気づかれることを恐れたという意味以前に、捨隈が「8」だったらこの策も無意味になっちまうと恐れたと、とらえることもできます。つまりここまで積み上げてきた全ての策が、捨隈が「8」であるか「9」であるかの違いの50%の確率でふいになるのです。
とはいえ、残されたコールの中で「13」が最も勝算のあるコールであることは間違いありません。その他のコールでは捨隈を騙せる騙せない以前に、返しのコールで死ぬ確率が非常に高くなってしまいます(これも検証すれば分かるので割愛)。前記の通り、例えばここで「18」をコールして捨隈を殺しドティに勝利しても、上でマルコが鞍馬組とアイデアルの両方の暴力と対立するため、意味がないですし。
そういう意味では、100%勝てるコールはこの局面では存在しません。捨隈のブラフを逆手にとる策も、演技がバレなければ100%勝てるという所までは詰められなかったのです。演技がバレる可能性も含めたら、40%程度の勝率のコールに自分の命運を託さなければならなかった嘘喰いの心境は、「正直不安でいっぱいだった」でしょう。
@ そして物語はクライマックスへと加速します。
3ターン終了後、捨隈が上に「16」を入力しに行った時、全てのバトルが終了した後でした。これは嘘喰いが予想した展開の一つではありますが、上が一体どうなってるかが分からなかった嘘喰いは、まだアイデアルが潜んでいる可能性、まだ鞍馬組がピンピンしている可能性などを考慮して、それでもマルコに指示を与えなければならないため、梶が偶然ヘリで来ていたことを利用してヘリで上に向かうことにしました。
そうしたら、全員の戦力がほぼ機能停止になっているという嘘喰いにとってベストな展開になっていたというわけです。
鞍馬組にとって誤算だったのは、カラカルの暴力の質を図り間違えたことはもちろんそうですが、先に上がってきたマルコが正解パスワードを知らなかったこともあるでしょう。
カラカルを倒した後、マルコが正解パスワードを入手していれば、入力させた後だまらせて入力権を奪うこともなんとかできました(フレシェット散弾は使いきってしまいましたが、まだ2発だけ弾の入った拳銃があります)。
だがマルコが嘘喰いから聞いてきたのは、「13」という鞍馬組から見てもおそらくはずれだろうと分かる数字だったため入力することができず、嘘喰いが上がってくるのを待つしかない状況にされていたのです。つまりは嘘喰いの策略通りというわけですが。
その間に蘭子は自らの負けを受け入れたのでしょう。24巻の後半の展開でも、もがいて勝ちを手にする手段は苦しいながらもあった。しかし、潔く負けを認めたのです。
これで蘭子の性格分析がはっきりと分かります。
それは先手を取られたら相手の予測を覆そうとすること(22巻のセリフ通り)。そして、覆せずそのまま相手のペースで事が進むしかない時=それはもう負けと同じであるという考えであることです。
今回嘘喰いがマルコに正解パスワードを伝えなかったという先手に対して、蘭子は後手にならざるを得ませんでした。
次に捨隈が上がってきたとしても、捨隈からナンバーを聞き出すことはできないだろうとも思っていました。脅しても無駄でしょう。捨隈にとっては脅しに屈する意味がないからです。むしろ24巻の展開でもあった通り、逆に捨隈に交渉されてしまうかもしれません。蘭子が正解パスワードを知るためには、やはり嘘喰いが上がってくるのを待つしかないのです。
そうなれば後の展開は全て嘘喰い次第。それを覆す暴力も策略もつきかけている。あとはみっともなく、嘘喰いがこう来たらこう返す、こう来たらこう返すの繰り返し。自分が先手を取ることはできない。つまりもう負けなのだ、と。
唯一抵抗をみせたのは、捨隈と合流した時にまだ仲間のふりをしたことでしょう。それも嘘喰いの先手に対して、予測を覆し先手を取り返す性分がみせた演技であり、ここで全てを捨隈が話してくれたなら嘘喰いが上がってくる前に正解パスワードが分かります。
しかし捨隈が嘘喰いとのドティ勝負の内容の全てを話さなかったのはもう分かるでしょう。それはその後、蘭子が「本当の正解パスワードを教えな」と言ったことからも分かります(その時全てを話していたら正解が「18」だと分かったはずだからです)。
しかし蘭子は、これが最後の悪あがきだと分かっていたでしょう。素直に全部しゃべるとは思っていなかったし、前記した通り脅したって無駄です。
じゃあいっそこのまま入力させてしまおう。捨隈は、アイデアルがいなくなったと分かっても、空砲を渡せば自分らを撃ってから安心して入力するでしょう。入力が成功した後、捨隈を殺せばいい。そうなれば、嘘喰いが来る前に入力権を手にすることができ、嘘喰いとの交渉に持ち込めます。
しかし、捨隈の入力は失敗……。蘭子はこの時「やっぱりそうきたか、嘘喰い」「最後まであんたの先手は覆せないってわけね」「分かったよ、負けを認めればいいんだろ」くらいな気持ちだったに違いありません。
ちなみに、その後の展開での捨隈の交渉に対しての「お前は当てられるのかい?嘘喰いの珠の数を」というセリフは、珠の数を当てたらお前の言うとおりにしてやるという、捨隈に対しても嘘喰いに対しても先手をとり返そうとする性分がみせたセリフです。
ただまあ、この時はもう負けを覚悟しているのですが、このままただ負けるのも癪だから「捨隈が何と答えるかせいぜい怯えな、嘘喰いくん」くらいな気持ちだったのでしょう。
「やり方にこだわる事と、目的のために手段を選ばない事…。私が二つの区切りをどこでつけてるか、本当の意味で分かるのは私だけ…。何を喰うかは私が決めることだよ」
蘭子のセリフですが、この時蘭子は後者を選ぶことができたのです。しかし前者を選んだ。前者を選ぶことで2発の弾という最後の戦力を使い切ってしまったとしても。鞍馬蘭子の性格を裏付けるエピソードですね。
そして負けを認めた鞍馬組は退散。捨隈の殺害は自分の負けに対するケジメだったのでしょう。
また、この最後のやりとりにはもう一つ、蘭子の深淵なる思考がありました。蘭子としては、嘘喰いが上がってくるまでに正解ナンバーを知りたかったわけですね。捨隈に教えてもらおうとしましたが、やはりだめでした。しかし実はここでもう一つ、手がなくはなかったのです。それが嘘喰いのナンバーを捨隈に教えるという方法です。
捨隈はそのナンバーが手に入れば、ほぼ正解ナンバーを手に入れたも同然です。その上でナンバーを入力させれば、ほぼ正解となり、直後捨隈を射殺すれば、嘘喰いが来る前に主導権が握れたはずなのです。なぜ蘭子はこの方法をとらなかったのか。
それがこの最後のやりとりの本当の意味なのです。
「私の答えは出てた…。こいつが「10」と答える事も、こいつがもう勝負師として負けてた事も」
蘭子のセリフです。蘭子は嘘喰いから9個の珠を渡された時に、嘘喰いのナンバーを「9」だと確信しました。しかし蘭子は、捨隈が9個の珠を見たら「10」だと思うだろうということも分かっていたのです。つまり、捨隈がナンバーを入力する前に嘘喰いの珠を教えていても、捨隈は間違いを入力してしまうだろうと思ったというわけです。
ならばそれを教えずに、自らが嘘喰いとの勝負の末に手にした答えを入力させて、行く末を見守ろうと思ったのです。勝負師としての捨隈のウデを買って仲間に引き込んだのですから、蘭子としてはそっちに賭けたのですね。
これも、蘭子のこだわりの区切りというものがさせた結果でしょう。結果は捨隈の負け。つまり蘭子の負けです。その判断が正しかったということを確かめる意味もあって、捨隈に嘘喰いのナンバーを当てさせるという行動にでたというわけです。
勝負師として終わっている奴に賭けてまで、勝ちを手にしたくないということですか。そうしてまで勝ったとしたって、今後は勝ち抜いていけないということでしょう。
「それとも私が間違っていただけ?私が、さっきあんたに嘘喰いの珠を見せていれば私たちの勝ちだったのを、私があんたを見くびったからいけなかったとでもいうのかい?じゃあそれを証明しておくれよ、捨隈」
そんな気持ちもあったのでしょうね。
ちなみに冷静になって考えれば、嘘喰いが「10」というのはあり得ないんですけどね。3ターン目で嘘喰いは「13」をコールしているからです。その前に捨隈は「14」をコールしているので、捨隈が「3」ということはあり得ない。嘘喰いが「10」だとしたら、ありえない「3」を狙ってコールしたことになり、ドティのルール上反則になってしまうのです。捨隈はこれを思い出せば分かったはずなのに…。
こうして業の櫓は幕を下ろします。さまざまな思惑が交錯したこの戦いは、その全てを知った上で読み返すととても面白いし、なるほどそういうことだったのかと思える部分も出てくると思います。ぜひ読み返してもらいたいです。
コメントをお書きください
カオリ (金曜日, 20 11月 2015 11:39)
解説のおかげですっきりしました!
すごく分かりやすいです。ありがとうございました。
gultonhreabjencehwev (土曜日, 21 11月 2015 19:47)
ありがとうございます!!
わかりやすかったですかー!
ダラダラと書いちゃってグダグダだなぁーと思ってたんですけど
伝わったならなによりです!!
つん (火曜日, 19 4月 2016 13:57)
改めて業の櫓を読み解きたくて色々検索したらここに行き着き、とてもスッキリしました!
頭の悪い自分にはここの解説でようやくわかった部分ばかりで(笑)
こんな複雑なかけひきを入れながら毎週話を面白くしている漫画はそうそう無いですねえー
gultonhreabjencehwev (木曜日, 21 4月 2016 22:35)
コメントありがとうございます!
無いです!そう思います!
連載の方も、まだまだ二転三転しそうですよね~。
あ (木曜日, 07 2月 2019 16:02)
>嘘喰いが「10」だとしたら、ありえない「3」を狙ってコールしたことになり、ドティのルール上反則になってしまうのです。
ああん?ドティのありえない数字は駄目って、自分の珠の数から考えて「ありえない」数字は駄目ってことで
ドティの結果から計算できる数字は関係ないんじゃねえの
gultonhreabjencehwev (月曜日, 11 2月 2019 17:57)
そうかもね
あ (金曜日, 08 11月 2019 02:19)
ステグマの屋上での「嘘喰いの数字が9か10か」についてですが、
確かに3ターン目のバクの13コールによって10はありえないことがわかりますが、まだバクが8の可能性が消えてないですよね?
最後は本当は「8か9か」の2択だったのではないか、と思います。(迫先生のミス?)
あ (金曜日, 08 11月 2019 21:42)
↑の追記
8,9,10の3択を、バクが珠9つを晒すことであえて2択にしたんでしたね、すみません読み込めてなかったです。
屋上入力ミスでバクの13入力がブラフだったと気づいたステグマは、13がブラフであったが故に、消えていたはずのバクの10の可能性が復活することを見逃さなかったんですね。
だから最後に9,10の2択に迫られた時に10をとったのかなと思いました。
gultonhreabjencehwev (金曜日, 08 11月 2019 23:50)
コメントありがとうございます!
たぶんそんなカンジですね!
あ (木曜日, 22 7月 2021 22:30)
結局なんで正解わかったの
うみ (日曜日, 05 3月 2023 22:00)
ドティで禁止なのは球数1なのに18答えるみたいなのだけで計算で除外されるものは範囲外だろ
gultonhreabjencehwev (月曜日, 06 3月 2023 18:56)
そうかもね