パーフェクトブルー 結末をひっくり返す

 

 

ネタバレしかしてません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーフェクトブルーのざっくりとした結末は、どんなピースに注目したか、どんなピースを伏線と感じたかによって、反転する構図になっているみたいです。私が注目したピース以外にも、人によっては無視できない伏線と感じるピースもあることでしょう。それらを軸に据えると、さまざまな結末に塗り替えられるのが面白い構成ですね。

 

私が注目したピースは、「死体は2種類に大別できる」という点でした。両目が潰された死体と、片目が潰された死体です。4つの死体は全員目を刺されているのですから、目を刺すことに意味があるのは明白です。では片目だけなのか両目ともなのかの違いに意味はあるのでしょうか。たまたまだと捉えれば、それまでです。私は偶然ではないと思い、ここに注目してみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両目を潰されたのは、最初に殺された映画監督と、最後に殺された事務所の田所さんです。一方、その田所さんのとなりに死体が転がっているオタク警備員は、左目だけ潰されていました。私のアンテナは、この差は無視できるものではないと告げています(人によっては、たまたまだと片付けられる問題ですね)。

 

また、エロカメラマンはピザ屋の格好した人に左目を刺されるシーンが描写されていますが、右目も刺されたかどうかは描写されていません。描写上ではハチャメチャに刺しまくっていますが、故意に右目を狙った様子は存在しません。殺害の最中に一瞬だけカメラマンの血まみれでぐったりしている様子も描写されますが、そのときの右目は無事です。以上のことから、カメラマンは右目は刺されていないのではないかと考えました。

 

 

両目を刺されているのは映画監督と田所さんで、左目だけ刺されているのがオタク警備員とエロカメラマンです。この差が示すこととは、前者と後者の犯人が違うということだと思いました。

 

 

 

 

 

犯人は、マネージャーのルミちゃんです。彼女が田所さんを殺したのは間違いないと思います。田所さんが死んだタイミングは、次の仕事がまたエロ系の仕事だとルミちゃんに告げた直後です。タイミングも動機も、すべての状況がルミちゃんを犯人にすることでしか説明できないと思っています。

 

田所さんは両目を潰されました。ですから、ルミちゃんは両目を潰すのではないでしょうか。となると、片目を刺す犯人はルミちゃんではありません。

 

 

 

 

 

左目を刺す犯人は、主人公霧越未麻なのではないでしょうか。そう、この事件の犯人は2人いたのです。そう考えるほうが、不自然さが少ないのです。

 

 

 

 

エロカメラマンが死んだ直後の朝、未麻の部屋のクローゼットに殺害時に使用した血のり付き衣装が発見されました。ルミちゃんが犯人だとすると、未麻の部屋にそれをわざわざ残していったことになります。それの説明がつきません。

 

ルミちゃんの犯行の傾向として、隠す意図は微塵も感じられないし、未麻の仕業に見せかけようとする意図も感じません。最初の映画監督の殺人を見てください。ラジカセが鳴りっぱなしなんですから、人目とかまったく気にしていないんですね。どう考えたってルミちゃんに隠蔽の意思がないのが明らかです。なのでその思考パターンからして、未麻の部屋に犯行時の衣装を潜ませる意味を見出すことがかなり困難です。これやるんだったら、最初の映画監督殺人のときの何かも未麻の部屋に置いて、プレッシャーをかけようとするハズです。

 

最後の未麻を襲ったシーンだって同じです。唐突に襲って計画性も何もあったもんじゃない。自宅で殺害しようとしてるんですから、仮に未麻の殺害が室内でうまくいったとしても、1000%の確率でルミちゃんは逮捕されます。そんなことお構いなしなんですね、ルミちゃんは。

 

その点、エロカメラマン殺害時はちょっと異質です。変装して近づいたこと。帽子をかぶってセミロングの髪を隠し、性別すら一見して判別不能な格好をしていること。相手を油断させようとする意図。監視カメラから自分の正体が一見してバレないような気配りを伺わせる意図。これは映画監督殺人や未麻殺人未遂と比べて、犯人の異質さが浮き彫りになっているとは思わないでしょうか。相手を油断させて殺すなんて、ルミちゃんが未麻にやるタイミングはいっくらでもあったでしょう?ルミちゃんは只々感情任せに行動しているのが明らかで、一方エロカメラマン殺害はある程度の周到さを伺わせるのです。

 

 

この点から、エロカメラマン殺害はルミちゃんとは別人であると推理することができ、それは未麻だとすることで説明がつきやすいと思うのです。

 

 

 

 

 

 

 

オタク警備員については、未麻に襲いかかって返り討ちに遭い、気絶したところが生きている最後の描写です。その後、未麻がまた幻影に捕らわれてシーンが終了し、その後に左目が刺された状態が最後の描写です。

 

オタク警備員は、気絶した場所と死んだ場所が異なっています。気絶した場所に血が飛んでないことから、そこで殺害して死体を移動させたというセンは消えるかと思います。また、犯人が死体を移動させるという行為は、他の3件の事件で見受けられません。なので考えられることとしては、オタク警備員自身の意思で、死んだ位置(近くの倉庫?)に移動したと考えられます。

 

ルミちゃんが田所さんを殺害する際の物音が聞こえてしまい、そこに移動し、ルミちゃんに気付かれ、ルミちゃんに刺された、という解釈も、まあ自然です。しかし私はオタク警備員の右目が無事という観点から、未麻が犯人だとするストーリーを描けます。

 

オタク警備員を気絶させたあと、凶悪な未麻が表に現れ、目の前の男を殺害することを決めます。自身の破れた服装などがあちこちに散乱している状況から、この場で殺害すると自分が犯人であることが明白になってしまうため、一考することに。近くの倉庫でルミちゃんが田所さんを殺害しているのを見て、オタク警備員もその近くに死体を置けば、ルミちゃんに犯行をなすりつけられるかもしれないと思い、それを実行。オタク警備員を引きずって倉庫の場所まで移動し殺害したか、オタク警備員を起こしてヨロヨロの状態で倉庫に逃げるように誘導しそこで殺害したか、いずれかの方法で殺したのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルミちゃんが両目を刺す意味、未麻が左目を刺す意味は、わかりませんでした。何か意味があるのかもしれないし、犯行のクセというだけなのかもしれません。しかし、一応この考えを後押しする推理は構築可能です。

 

 

 

 

ルミちゃんがアイドル未麻に変身したシーンをピックアップします。鏡に写ったルミちゃんは、「恋はドキドキするけど」と歌いだしました。「どう?バッチリでしょ?」と言いました。そのシーンはよく見るとめちゃくちゃ不自然です。それは鏡に写ったルミちゃんは、鏡の世界で左手でマイクを持っているからです。

 

冒頭でチャムのコンサートがありました。その際未麻は、ずっと左手にマイクを持って振り付けは右手で行い、踊っていました。3人全員そうなので、振り付けの手が左右逆になると揃わなくなます。ですからチャムのあの歌の振り付け上のマイクの持ち手は、左手で固定のハズです。

 

バッチリだと豪語するルミちゃんの振り付けは、鏡の世界で左手にマイクを持っているため、現実世界では右手に持っていることになります。これはどう考えてもおかしい。左右逆になってしまう必然性がなにもないからです。となると、考えられる解決策はおそらくひとつ。ここのシーンの鏡上の世界は、反転することなく、そっくりそのまま現実世界を描写しているということです。未麻も若干、鏡の中のルミちゃんに話しかけるような目線になることも、それを示す伏線になるのでしょう。

 

 

 

最終局面の鏡に写らない描写は、信用できない描写であることは明らかです。アイドル未麻がふわふわと未麻を追いかけています。それが鏡に写し出された瞬間、必死な形相で未麻を追いかけるルミちゃんが現れました。

 

要注目です。このときのルミちゃんは、武器の傘を、鏡上で左手に持っています。普通ならば、右手に持っている傘が鏡上では反転するから、実際には右手に傘を持っているのでしょうと考えればいいですよね。しかし上記の結論から、鏡の世界は現実世界そのままであることが導き出されています。

 

ここから推測される、ある結論です。ルミちゃんは左利きなのではないでしょうか。ルミちゃんの利き手は、物語上の他の描写では非常にわかりずらく描かれています。右利きっぽい描写もあれば、ペンは左手に持ってたりと左利きっぽい描写もあります。確定的な描写はひとつもありません。ですので、ルミちゃんの利き手の確定描写は、最終局面の傘を左手に持って追いかけるシーンだけだと、私は思います。

 

 

 

ルミちゃんの利き手は左手。であれば、目を刺す時、片目だけなのであれば、それは必然、右目だけになるのではないでしょうか。左目だけが刺された死体が出たならば、それは右利きの犯人の仕業です。ですから、特にオタク警備員の殺害犯は、利き手が証拠となり、ルミちゃんが犯人ではないと推理できるような構成になっているのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、ラストシーンです。

 

 

 

 

未麻が病院のルミちゃんの元に訪れました。私の結論では、ルミちゃんが2人、未麻も2人殺しています。警察は、それに気付かなかったのでしょうか。私はちがうと考えます。

 

 

「いらしていたんですか。お忙しいでしょうに」

 

「もう会えないのは分かっているんです」

 

「ウッソ、来るわけないじゃん、霧越未麻が」

 

 

普通に考えれば上記のセリフはすべて、未麻が社会的な成功を収めたことを示していると捉えるでしょう。私はそれをミスリードだと読みます。上記のセリフはすべて、未麻に殺人容疑をかけられている状態で、裁判で戦っている最中の未麻を表しているセリフだと捉えました。

 

ですから、獄中にいるはずの霧越未麻がこんなところにいるハズないと周りは思った。担当医師は、事情をある程度把握しているため、裁判で忙しいだろうにと言った。実際は、ルミちゃんに2箇所刺されたことによる入院が必要だったため、刑務所の中に入らず、退院後に逮捕みたいな形だったため、そのわずかの隙間を縫って、この病院を訪れていた。

 

 

 

 

劇中劇「ダブルバインド」の、未麻のセリフです。

 

 

「そう、私は女優よ」

 

 

本当は「私はモデルよ」が本来です。ならこのセリフは何なのでしょう。分離しかけてた未麻の第2の人格は、「アイドル」だったハズです。自分はアイドルだと思い込んだ、その人格の暴走が、パーフェクトブルーの犯人だったハズです。その依代がルミちゃんだろうと未麻本人だろうと、暴走したのは「アイドルの未麻」だったハズではないですか。

 

 

これが示すものとは、未麻の人格を乗っ取って支配しようとしていたのは、そして実際ラストに支配に成功したのは、「女優の未麻」という人格だということなのではないでしょうか。殺人を犯していた未麻の悪の人格の正体は、「アイドル」ではなく「女優」だったのではないでしょうか。

 

彼女は、女優として彼らを殺害していた。だからルミちゃんの無鉄砲な行き当たりばったりの犯行とは違い、ある程度の細工が見え隠れしていた。女優として、犯人を演じているつもりで殺人を犯していた。

 

 

そしてとうとうラストには、女優という悪の人格に支配された。そして、世間を、警察を、演技で欺くことを柱に据えた。自身の犯した2つの殺人を、演技で無罪を勝ち取ることを心に決めた。そしてそれが成功する自信しかないくらいに、自負心を高めることができた。心身喪失状態で刑事責任を問える状況ではなかったのだということを、演技で絶対に認めさせる使命感に捕われていた。もしかしたらラストは、実際にそれが成功したあとのシーンなのかもしれません。

 

 

 

 

 

それが、最後のニヤリとした表情の正体なのかなと、私は思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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コメント: 4
  • #1

    (日曜日, 16 4月 2023 18:10)

    今まで見た中で一番の考察でした

    ただ一つ身も蓋もない事を言うとルミちゃんと対峙するシーンでの
    マイクを持つ腕はもしかしたら単純に描く人のミスだったかもしれませんよ

    作る人も人間ですから

  • #2

    gultonhreabjencehwev (水曜日, 19 4月 2023 22:10)

    コメントありがとうございます。
    ミスに根拠がくっついてれば、比較対象になりうると思います!

  • #3

    ドンキー (木曜日, 04 1月 2024 10:16)

    ルミちゃんが両目を潰すのは「清純なアイドル(未麻)をエロい目で見るな」という意味なのかもしれません。
    カメラマンを殺ったのは未麻でしょう、そして罪を脚本家を殺った犯人に擦りつけるつもりでいた。だから模倣して目を潰したが両目ということまでは知らなかったので片目だけやった(オタクも)ということなんでしょうかね。

  • #4

    gultonhreabjencehwev (土曜日, 06 1月 2024 14:12)

    コメントありがとうございます!
    なんか推測する手がかりがあればいいんですけど自分はみつけられてませんので、おおまか自分もドンキーさんと似たような考えです。
    メタメタなこと言わせてもらえば、利き手を手がかりにするための目潰し犯という構想優先により目を潰す心理描写をサボった、のかなあみたいな想像もしてます。