6年前の紗音との約束を、戦人は本当に忘れていたのでしょうか?私は違うんじゃないかなと思います。そのシーンを振り返ってみましょう。
「紗音ちゃんは、いつまで使用人を続ける気なんだ」
「……わかりません」
「もし、いつか。辞める時が来たら」
「来たら……?」
「俺のところへ来いよ」
(略)「必ず、その日は来るさ」
「……来るでしょうか…」
「あぁ。絶対にな。その日が来たら……、俺が白馬に跨って、迎えに来てやるぜ」
(略)「そ、……その日は、いつ来るんでしょう…」
「紗音ちゃんさえ決心したなら、すぐにさ」
「え、……っ…」
「俺はいつだっていいんだぜ。紗音ちゃんの人生さ。よく考えてから、決心するといい。……俺はその決心がいつであっても、それを尊重するぜ」
「は、……はい……」
「その日まで、ずっと待ってるぜ」
(略)
「……時間をくれて、ありがとうございます」
「時間は無限にあるぜ」
「いいえ。……それでは申し訳ないです。待ちくたびれちゃったら、申し訳ないです。だから、決心しました。……うぅん、決心します、と言うのが正しいでしょうか。……今日、今すぐ、使用人を辞めるという意味じゃありません。……そう、…1年。……1年後に」
……1年後にも、あなたが、私を白馬に跨って迎えに来てくれる気持ちが、まだ揺らいでいなかったら。そして私も。1年後に、あなたを好きでいる気持が、揺らいでいなかったら。私は、あなたに全ての人生を捧げようと思います……。
「1年後に、この同じ場所で。……決心しようと、思います」
「……1年か。いい時間だな。春夏。秋冬。……それだけの時間を過ごして、自分の心と正直に向かい合うといいぜ」
「で、……ですから…、来年……」
きっと、……迎えに来て下さいね……?
「おう。その日が来るのを、待っているぜ」
「はい。……私も、待っていますからね……。…絶対、……来て下さいね…」
「あぁ」
「……絶対ですよ。来年、来て下さいね」
「あぁ。絶対、来るぜ。ここで会おうな」
紗音の気持ちは分かります。1年後、戦人が迎えに来てくれたら、一緒になりましょう、と。 来年この場所に来てくれることが、迎えに来たという意思表示であり、それを受け入れます、と。
では戦人はどういう気持ちだったのでしょう。来年、自分がここに来る来ないの約束と、紗音の決心とは別物と捉えた可能性があります。紗音が決心する日(使用人を辞める日)が来るのを待っているから、辞めたなら、俺が白馬に跨って迎えに行ってやる。その決心の結果を来年俺に伝えてくれるようだ、と。もし来年決心しきれなくても、俺はいつまでも待っているぜ、と。
紗音の吹き出しにない部分は、セリフではなく想いなのですから、戦人には伝わっていません(緑の字の部分が特に重要)。それを紗音は伝わったと思い、早くも告白してしまった決心を、戦人は力強くOKしてくれた、と思ってしまったのです。だから後は、戦人が迎えに来てくれるのを待つだけだ、と。
正にすれ違い。お互いが受け身だったようです。紗音は迎えに来るのを待っていた。戦人は辞めるのを待っていた。戦人にとって、「この場所に来ること」と「迎えに来ること」が同義ではなかった。紗音は同義と捉えた、のです。
結果、6年ぶりに六軒島に訪れた戦人は、譲治と紗音の恋仲と、今夜婚約する事実を知ります。これはエリカ化しますね。EP5の????で、ドラノールとワルギリアとの会話の中で、このことについて戦人は少し言及しています。
……自分が愛したら、相手も同じように愛してくれるという保証が得られるまで、……相手を愛したくない。
「まさに奥手な、小学生、中学生の恋愛だな。……気があるくせに、打ち明ける勇気もなく、相手の告白を待って、もじもじしたまま何の進展もなく、……ひと夏が終わる。いやいや、他の男とくっ付いちまうことだってあるぜ。俺の初恋もそんな感じだったさ、いっひっひ」
どうやら戦人は、恋愛に関しては奥手だったようです。そのすれ違いによって後に起こる悲劇は、まるでロミオとジュリエットみたいですね。
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