AIDAとは

AIDAの正体を探っていこうと思います。

そのために、まず紐解く必要があるのが「物語を語る力」についてです。

 

 

 

「物語を語る力」という言葉は、アバターをもつ碑文使いPCの意志がみずからの結末を決めうる、というような観点でオーヴァンがよく使っています。

 

意志あるところに道がある。

対象は認識に従いうる。

 

意志の力が自分の未来を変えるんだ、というありがちな方便に聞こえますが、この The World においてはそれとは別次元の意味合いも含まれます。

 

「このゲームにはふしぎな自律性がある」

「CC社の制御を受けつけず、ゲーム自身のルールで動いている部分があるということだ」

 

このゲームには、ゲーム自身が考え、自分自身のストーリーを描く力があります。ゲーム自身とは、プレイヤー個人個人のストーリーの集合体のこと。個々のストーリーをモルガナ因子によって収集し、数値化されることで為されるものこそ、究極AIアウラの姿です。アウラという The World の神の思考回路は、プレイヤー個々人の思考に、行動に、ストーリーに影響を受けるということです。つまり The World 自身が描くストーリーとは、この The World をプレイしているプレイヤーのストーリーが基になっているといえるわけです。

 

数値化のツールとなるモルガナ因子を特定個人が有している以上、その因子を持つプレイヤーの思考に The World 自身が大きく影響を受けるのが必然です。となれば碑文使いPCにとっては、自分のストーリーを全うすることが、自分自身のみならず The World そのものの未来にも、多大な影響を与えることにつながるのです。

碑文使いPCにとっての「物語を語る力」とは、意志の力という意味だけではなく、The World に自分の物語の存在を主張して残すことが許される力、いわば The World に”物語を語らせる力”という意味なのではないでしょうか。それはつまり、The World のありよう、ストーリーに、加筆することができる力であると言い換えることができるものです。

 

物語を語る力

=The World に自分の物語を語らせる力

The World のありよう、ストーリーに、加筆することができる力

 

もし「The World のありよう」などという本があるとするならば、その本を編集することができる力こそが、まさにデータドレイン、データを改ざんする力の正体というわけです。

 

 

 

 

 

さてAIDAに話を戻します。

データドレインの正体を把握した上で、AIDAが生じた経緯をふりかえってみますと、面白い符合が見えてきます。

 

AIDAが生まれる直前、オーヴァンとアイナは何をしていたかといいますと、黄昏の碑文を読んでいたのでしたね。そしてオーヴァンは、途中で終わってしまっているその本の続きをアイナが描けばいいと言いました。それにアイナが同調し、続きを描こうとした瞬間にAIDAが生まれたのです。

 

黄昏の碑文とは、まさに The World のありよう、The World の基になるストーリーです。その本を見つけ出し、本の続きを描こうとする行為は、先述したデータドレインの力そのものですね。つまりアイナの行動は期せずして、モルガナ因子にだけ内在するはずの力、 The World のストーリーに加筆する力を、行使することにつながったのです。

そのときに生まれたAIDAが即座に起こした行動、アイナPKという行為は、アイナの行動を阻止するため、データドレインの力を行使させないためのものという推測が成り立ちます。

 

 

この一連の流れは、ある現象と酷似していることにお気づきになりますでしょうか。『R:1 .hack 』の物語です。

勇者カイトがインストールブックから得た力、データドレインの力は、本来モルガナ八相にしか備わっていない力です。しかしその力を得てしまったとき、同時に反存在が生まれてしまいました。クビアです。

 

私はこう思うのです。AIDAの正体とは、前作でいうところのクビアと同質のものであると。カイトという本来 The World にいるはずのないイリーガルな存在を排除するために生まれたのがクビアであったのと同じで、アイナというイリーガルな存在を排除するために生まれたのがAIDAだったのではないでしょうか。

 

正確には、アイナを排除するためというか、データドレインの力(前作でいう腕輪の力)を排除するためですから、アイナを排除したところでAIDAが消滅することはなかったのでしょう。黄昏の碑文というアイテムをオーヴァンが見つけ出してしまった以上、それを改ざんする行為が起こされる危険性は、アイナが消えても残り続けるからです。

このAIDAを消滅させる方法は、前作と違って非常に困難です。八咫なら何か思いつくかもしれませんが…。オーヴァンは結局AIDAの消滅という方法は選ばず、共生という道を選びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

次に、AIDAの力がどう人間に影響するのかについて考えてみます。

AIDAに限らず、データドレインによるPCへの攻撃は、そのプレイヤーの意識を失わせてしまいます。これは、

「プレイヤーの思考をサンプリングする」

「それを The World に組み込む」

という力がデータドレインですから、その力を直接受けた場合には「それを The World に組み込む」の能力がもろに影響してしまうからでしょう。

 

そもそも「思考をサンプリングする」過程において、ツールがその人の思考を的確に捉えるためには、人間の意識がゲームの外にあっては100%正確なものは入手しずらいです。例えなんていくらでもありますが、「その人が困ったときにどういう仕草をするのか」という命題があったときに、頭をかくだとか、腕を組むだとか、いろいろあると思うのですが、PCにそういう仕草をする機能がなければデータは採れません。より良質なデータを求めるならば、人間の意識を The World 内に連れてきてしまうことが、一番の解決策となるわけです。

連れてくる方法としておそらく、

「『自分の自我はこのPCだ』と思い込ませることができる能力」

なるものを駆使していると思われます(「おれはここにいる」ってヤツです)。

「人間の意識を The World 内の任意の一点に定着させる能力」

と言い換えることもできます。「それを The World に組み込む」という能力の具体的な使われ方ということです。結果、そのPCが攻撃を受けてやられることは、「自分の自我はこのPCだ」と思い込まされている中では、死んだと実感してしまうことにつながるというわけです。

 

死んだと実感してしまった意識がどうなってしまうかというと、先ほど記した「それを The World に組み込む」能力によって、 The World 内のどこかに漂流することになります。そして時には癒着という現象も起きます。 The World 内の何かに、その意識が定着することにフィットするときがあるようなのですね。

例えば八咫がそうでしょう。 The World 内のいちアイテムとしての存在に、彼の意識はフィットしたのです。その点愛奈は、何にもフィットしなかったのでしょう。「オーヴァンが認識している愛奈」であるコルベニクにさえも癒着せず、それは私じゃないってなことなんでしょう。愛奈はパパに依存していなかったようですね。ゆえに彼女の意識は、 The World 内のどこかにあるが、どこと特定できる場所にはいない状態になってしまったのです。

 

また、たまに意識が回復することもあります。結局「自分の自我はこのPCだ」と思い込まされているだけなので、その暗示からの脱出さえできれば、いつでも復活はできるわけです。そのコツはやはり意志の力でしょう。自我というものをしっかりと持っている人間は、この暗示から抜け出せるのでしょう。碑文使いPCが意識不明にならないのは、精神力の強さゆえでしょうね。

そして強さだけでなく、そのベクトルも大事だと思われます。八咫なんかはその典型で、戻りたくないという想いがあるから意識が回復しないのです。曇りなく、現世に戻りたいと想っていなければならないのでしょう。

 

 

 

となると、志乃はどうだったんでしょうね。これは私の想像ですが、現世に戻ることにこだわってなかったんじゃないかと思うのです。志乃の意識は、漂流していたわけではなく、AIDAに癒着していたと私は思うのですが、その状態でも志乃はある程度幸せを感じることができていたのではないでしょうか。オーヴァンと一緒にいられているわけですからね。

であれば、志乃の意識を回復させるためには、彼女自身が「もうこの状態が幸せではない」と感じなければならない。だからオーヴァンは、志乃をフるというプロセスを踏まなくてはならなかったのではないでしょうか。

また、こうも考えられます。志乃の意識は、ハセヲのアバターにも癒着していた。ハセヲが志乃に感じている想い、憎しみに、志乃は囚われていたのです。だからオーヴァンは、志乃を救いたければハセヲ自身を救えと言った。ハセヲが志乃に対して憎しみをなくすこと、すなわち愛することをやめて、自分が考える志乃と本物の志乃は違うと認めること、つまり志乃を諦めることが、スケイスに囚われている志乃の意識を解放することにつながるのだということなのではないでしょうか。

 

いずれにせよ、志乃の意識が回復した経緯には、AIDAの暗示の力が解けたからだという理由じゃないところで、ドラマがあったのです。「暗示が解けたから」ではなく、「暗示を解いたから」だということですね。

なぜなら、AIDAは消滅していないし、データドレインの力も失ってはいないはずで、単純に愛奈に姿を変えただけだからです。愛奈をAIDAに定着させた理由に、前記した「人間の意識を The World 内の任意の一点に定着させる能力」を活用したかったからだという理屈が最も筋が通るはずで、となればAIDAは力を失ってないのですから、志乃にかけた暗示も解ける理屈がないのです。

八咫の意識が回復したのも、彼自身が「もうこの状態が幸せではない」と判断したからだと私は思います。オーヴァンの為したことは、 The World の新しい神を誕生させたこと、すなわちアウラはとっくに死んでいるということを証明したことと同義で、アウラに恋していた八咫にとってはこの The World 内に留まる理由がなくなってしまったからだと思うのです(これはかなり苦しい理屈かな?)。

あるいは、愛奈の意思である可能性はあるかもしれません。AIDAの力をコントロールできるようになったわけですから、父を独占するために志乃を追い出そうとする意思が、志乃にかかった暗示を解いたということはありえますが。

 

 

ちなみに、アトリがAIDAにイニス因子を奪われた際に、耳が聞こえなくなった件も、この力の関係です。

アトリはAIDAに攻撃された際に、「人間の意識を The World 内の任意の一点に定着させる能力」の一部を受けてしまったのです。千草の有意識の一部である聴覚が、アトリに定着させられてしまったのです。言い換えると「千草の耳は、アトリのPCにある」と思い込まされてしまったということです。だから、ログインしたときにだけ耳が聞こえるという状態になったのです。

一部というのは、イニス因子部分にという意味です。アトリPCのイニス因子パーツが、AIDAに奪われる=AIDAの能力の影響をイニス部分だけ受ける、ということにつながります。ですからイニス因子を取り戻すことで、AIDAの呪縛から完全に解放されたという流れになります。

 

 

 

 

 

 

 

AIDAの性能についてはこんなかんじだと思うのですが、最後にAIDAの性格について簡単に記します。まあクビアを思い返すだけで事足りるとは思うのですが、要するに破壊的ってことでいいんじゃないでしょうか。あとはオーヴァンに友人と言わしめたことから、人間の心を知りたいと思う淋しがり屋ってことだと思います。

最後に愛奈と一つになることで、満たされたってことで落ち着いたんじゃないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

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