その他の真実

<欅について>

 

欅の正体については、作中で一番の謎といっていいでしょう。私も確信があるわけでは全然ありませんのであしからず。

 

欅というプレイヤーの特徴をまとめてみます。

・チートPCを使用している

・一般プレイヤーが知り得ないことを、なぜか知っている

・データドレインによるPKが通用しない

・ネットスラムの住人

・ハセヲに心酔している

・The World をとても愛している

・The World にとって悪しき未来を、変えるための力を何も持っていない

 

これらの特徴に、非常によく似たプレイヤーが前作にいました。ハッカーのヘルバです。チートPCを使用するネットスラムの住人であり、The World に対する知識が豊富であるものの、自らがモルガナ八相やクビアに対しての対抗手段を持ち得ないため、サポート役に回らざるを得ず、実行役は主人公ならできるという想いを持っている人物です。

 

しかし欅=ヘルバだと断定するには、ただ1点説明がつかない特徴があります。データドレインによるPKが通用しないらしいことです。こればっかりは、天才ハッカーだから平気なんだという理屈では、違和感がありすぎます。

意識不明にならないためには、強靭な精神力以外にないはずですし、ぼくには効かないと言っている以上、精神力で跳ね返せるという意味ではないはずです。システム的に防御可能なら、パイたちに教えればいいだけの話ですし、インターフェイスを介して脳内に影響を及ぼすAIDAを警戒するためにインターフェイス自体を使用していない可能性は、The World を愛している者の行動としては不自然です。「おれはここにいる」感を味わえないからです。複数のパソコンを介してプレイしているから大丈夫なんだという理屈も、AIDAの特性を考えれば効果はないでしょう。ネットワーククライシスを起こせるほどの力を持っているのですから。

 

さてここで、データドレインによるPC消滅がへっちゃらな存在があることを思い出してください。自律型メンテナンスAI、トライエッジです。

彼は、いくらデータドレインの力で消滅させても、すぐに自己修復できる存在です。この The World においてそのような特徴を持つ存在は、描写されている限りではトライエッジだけです。

 

以上のことから私は、欅とはヘルバの性格を有している自律型AIであると推測します。あえて名付けるならば、自律型ハッキングAIです。前作R:1でその名を物語に刻み込んだハッカーヘルバを、トレースしたAIであるということです。

 

「このネットスラムが、あんまり居心地がいいものだから……いつしか演じているのか、演じさせられているのか。自分がPCであるのか、NPCであるのかも区別がつかなくなってしまった方もいました」

 

まさに欅がそうだったのでしょう。トレースの質が良すぎたため、自分がヘルバなのか、ヘルバをトレースしたNPCなのか、区別がつかなくなってしまったんじゃないでしょうか。

 

欅のPCにあるチートデザイン、龍の角は、欅が龍であることを示唆するものです。The World の神話では、龍とは神々の最終兵器。抗神戦線において碑徒に敗れるものの、その後も碑徒には従わず、終には骨となったモンスターです。

The World に影及ぼすオーヴァンに、骨となるまで抗うは龍の定めということなのでしょう。オーヴァンのような異分子が出てきたときの対抗手段として、The World が旧バージョンを元手に生み出したNPC、まさに最終兵器が欅だったのです。

 

 

 

 

 

 

<ハロルド・ヒューイックについて>

 

ハロルドについて、1点、 彼の過去を邪推できる部分があります。

私はこの .hack//GU の物語を、「符合」という要素を重視して読み解いてきました。あの時こうだったから、この時もこうなる、というような読み解き方です。

 

そうして振り返ってみると、ハロルドの辿った足跡はオーヴァンによく似ています。愛する者を失い、それを取り戻すために自分の命を落とし、取り戻したものは The World 内でしか表現されないものであるが、それで満足だというこの一連の流れは、二人してまったく同じです。もちろん、オーヴァンがハロルドをなぞっている部分が大きいのでしょうが、彼らの思考回路が似ているからこそ、辿った足跡が結果的に同じものになったといえるのではないでしょうか。

 

私はここで邪推します。彼らが愛する者を失った経緯も、「符合」というキーワードが当てはまるのではないでしょうか。二人とも、愛する者を失った経緯は「ちょっとした謎」という意味で、すでに共通しています。アイナはAIDAに ”なぜか” PKされましたし、エマは交通事故 ”らしい” ですが、詳細は不明です。

アイナ死亡の経緯は、オーヴァンの真実で示しました。オーヴァンが殺したというのが真相なのです。オーヴァンとハロルドの符合という観点からすれば、ではエマ・ウィーラントも、ハロルドが殺したというのが真相なのではないでしょうか。エマはハロルドの女にはならなかった。恋人としては拒絶したとあります。

 

だから殺した。

 

オーヴァンの動機とまったく一緒です。

そしてやはりオーヴァンと同じく後悔した。だからこそ、ここまでのことを為し得た。モルガナシステムを構築し、究極AIを生み出すことでエマへの愛を表現しようとした、その原動力は、彼女を殺したのが自分だからという罪の意識が大きかったといえるのではないでしょうか。何から何までオーヴァンと一緒です。

そのことに、オーヴァンはおそらく気づいていったのでしょう。ハロルドの足跡を辿っていくうちに。ハロルドはおれと一緒だと。それが彼の言葉の端々に覗えます。

 

「まったく……なぜハロルドという魂は、肉体という常識をおのが精神力で消し去ってまで、そこまでして闘争し得たか」

「エマへの愛だ」

「おまえにとっての志乃のように、か……?だが、エマ・ウィーラントは人智学の言葉の実践をめざす、同志としてハロルドに共鳴はしたようだが、恋人としては拒絶したぞ。事実としてハロルドの女にはならなかった」

「……自分はいたからだ。それでも」

「つまり自分のためだな」

 

「そもそもエマが書きたかったのは、少年少女をわくわくさせるファンタジーではなかった。書きたかったのは霊的世界の有り様――芸術であり思想のほうだ。ちがうか……?そしてエマは作品を投げ出した。美しいものは美しいまま……未完のまま」

「不慮の死だった」

「……では、あったろうがね」

 

後者の会話の中で発した、「では、あったろうがね」というセリフの前にある「……」という思案の間。これは、”不慮の死”であったことはまちがいないが、”不慮の事故”ではなかったのかもな、という思案の間だったとも邪推できます。エマにとっては不慮であっても、ハロルドにとっては果たして不慮だったのかな、と。

もちろん、これが真相だと断定できるものではありません。ただこの物語は、こう読み解くのが正しいんじゃないかと私は思うのです。

 

 

 

 

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コメント: 4
  • #1

    .hackのファン (月曜日, 27 11月 2017 16:22)

    <ハロルド・ヒューイックについて>の項は、そうとしか思えないほどここまでの話と合致していて、読んでいて感心させられました。
    ハロルドについては、作中も語られていない部分が多いので、もっと掘り下げられていたら、この推察の内容も事実として存在していたかもしれないと思ってしまうほどでした。
    ここまで本サイトの「.hack//G.U. を読み込む」を読ませていただきましたが、新たにこの作品の奥深さを発見し、おもしろさを再確認させてもらいました。
    このようなおもしろい記事を読ませていただいた事を、.hackのファンの一人として感謝します。

  • #2

    gultonhreabjencehwev (土曜日, 09 12月 2017 19:43)

    気付かなかった~!
    コメントありがとうございます!
    おもしろいと思ってもらえて、すごく嬉しいです!!

    .hack 奥深いですよね!
    私は G.U. しか知らないし、コンテンツもいろいろ出てますけど、アニメとこの本以外はとくに知らないんですよね~。ゲームはよーつべでだけだし、書籍もこの本以外読んだことないですー。
    .hackのファンさんはこのシリーズの何が一番面白くておすすめですか?

    リメイク出たんですよね。動画で見てみようかな~。
    何か変わったんかな~。

  • #3

    カノン (月曜日, 22 7月 2019 18:13)

    考察、拝見しました。
    現在ラストリコードをプレイ中で、(ps2版プレイ済みです)懐かしくなっていろいろ考察など探していたところでした。
    どの解釈もとても興味深く、楽しく読ませていただきました。ありがとうございます。

  • #4

    gultonhreabjencehwev (木曜日, 25 7月 2019 23:23)

    コメントありがとうございます!
    ゲームプレイされている方なら、ここの話は違和感しかなかったでしょう・・・。それでも楽しんでもらえたならよかったです!
    ラストリコードも楽しそう!!