エリカ=霧江と捉えたEP6を、その観点から詳しく掘り下げていきます。その肝は、なんといっても人間の理屈を構築できるという点にあります。EP6の解釈で決定的に欠けているのがまさにこの観点でありますから、これを軸に解釈していこうと思います。

 

 

 

 

 

 

まず、基本的な部分をしっかり抑えておく必要があります。エリカ=霧江ならば、他者が観測しているエリカの姿は一体なんなのかということです。エリカに対して接する態度は、そっくりそのまま霧江に対して接する態度であるはずもありません。譲治が霧江に対し「エリカちゃん」とか話しかけるわけもありませんから。ここから解決していきましょう。

 

 

大前提として、エリカがエリカに視えている時点で、それは幻想描写の証という解釈になります。EP6ではエリカなんて人物は来島していないわけですから、「エリカちゃん」と発言することは決してありません。それがなされた時点で、ベアトを視たとするそれまでの幻想描写と同じ括りになるということです。

 

ということで、エリカ来島から事件発覚までの描写は、ほとんど幻想描写で構築されているということになります。まあ、ここは事件とはほとんど関係ない描写ですから、メッセージ性が強い表現ということでスルーしてあげましょう。

目を光らせなければならないのは、事件発覚直後からです。

 

譲治と朱志香がエリカの部屋に、戦人と真里亞がいないことを報告に来たところから始まりました。しかしこれは、ナレーションでそうなっているだけで客観的事実ではありません。うまくメタ世界のやりとりと絡ませることによって、彼らが「エリカちゃん」と発言しそうなセリフをカットすることに成功しているこのシーンは、まさに彼らが相対しているのがエリカではなく、エリカと幻想修飾される人間の誰かとなるシーンであることを表しているのですね。

 

 

 

 

ちょっと変かもしれませんが、私はこのときのエリカは戦人だと思っています。理由はちょっと割愛させてください。感覚的な話で説明しづらいので。真里亞とコーヒーカップの件でバトったエリカも、私は戦人だと思っています。理詰めで真里亞を否定した大人げない戦人は、譲治たちから白い目で見られ、「行こう。また今年も僕たちはいとこ部屋で過ごそうよ」と戦人は締め出されてしまったのです。ところが、真里亞の姿が見えなくなったことに気づいた譲治たちは、戦人のところに行ったのかもしれないと思い、戦人の寝室を訪ねたのでしょう。それがこのときのシーンの詳細だと私は思っているところです。

 

そして戦人は真里亞を探しに屋敷に訪れた。屋敷のカギは開いていた。なぜなら、郷田や留弗夫が客間に入るために窓側へ回りこむ必要があったからで、屋敷から一旦外へでなければならなかった際に、扉の施錠を解除したからです。そしてそのまま屋敷に侵入した戦人は、廊下で霧江に遭遇し、空の客室に誘導され、殺されたのでしょう。これが第1の晩の詳細だと思います。

 

 

 

 

で、このシーンの後からのエリカは霧江だと思うのですが、なぜそうなるのかも割愛します。感覚的すぎて、文章化すると膨大になりすぎるからです。二人のエリカがいたという解釈が許されるのかどうなのかも、正直わかりません。そう考えるより他に説明がつかないと私は思うのですが、別の立論もぜひ聞いてみたいところではあります。

 

 

 

 

話をゲーム盤に戻します。戦人の客室にて、蔵臼たちがすったもんだしてますよね。そこにエリカも加わっているのですが、私は幻想だと思っています。誰もエリカに話しかけていないし、エリカの話に誰も反応していません。エリカ抜きであのシーンが展開されたとしても、なんら不自然ではない描写に仕上がっているのが、そういう視点で見なおせばわかると思います。

 

そのことが赤字にも現れているのです。

「密室破壊後、部屋に入ったのは、私を除き、蔵臼、留弗夫、秀吉、郷田の4人のみである」

”私を除く”必要があるのでしょうか?部屋に入ったのはエリカ蔵臼留弗夫秀吉郷田の5人のみだ、でいいじゃないですか。実際、最後の戦人の客室での赤字バトルでは、「客室を出入りしたのは、そなたと戦人と嘉音のみだ」とエリカの行動をしっかりと赤字に含めています。

 

これはつまり、エリカはこのとき一緒に入ったわけではないことを暗示しているのです。ではエリカ(霧江)はこのとき何処にいたのかといえば、戦人の客室のどこかに隠れていたのです。なぜなら、そうしなければ密室の説明ができないからです。内側からしか掛けられないチェーンロックが施された部屋で戦人は死んでいたのですから、殺した霧江はまだ客室内にいなければなりません。

 

このことも赤字で表現されています。

「密室破壊時、室内には犠牲者(夏妃・絵羽・霧江・楼座・真里亞・戦人)以外存在シナイ」

つまり、戦人が死んだ客室に霧江がいたとしても、この赤字には抵触しないのです(私は他の5人の死についても、この解釈のコラボレーションで説明することもできると思っていますが、本筋の話ではないので割愛します)。まるで、戦人の客室には戦人しか、貴賓室には絵羽しか、夏妃の自室には夏妃しか、いないということを赤字で説明しているように捉えがちですが、この赤字ではそこまで詰め切った文章になっていません。わざとそうしているのです。

 

そのことは、ちょっと立ち止まって考えれば誰でも気づくゴマカシです。しかし、ここで立ち止まらせない展開をみせる構成力はさすがです。その直後に、

「密室破壊時以降に、殺人は行なわれていナイ」

「拒否する」

という印象深いやりとりを持ってくることで(BGMも止まります)、読者の意識をそちらの方に誘導しているのでしょう。どこかで習いましたが、人間は印象に残るモノの”直前に見たもの”を忘れがちなのだそうです。何かを集中して作業する中で、突然地震が起こって作業を中断し、落ち着いたところで作業に戻ろうとしても、どこまでやったっけみたいな感覚になるヤツらしいです。

 

推理小説家の人はたぶんみんなこのことを知っているんだと思いますが、彼らが重要な伏線を忍ばせる際には、印象に残る文章の直前に入れる、というのが読者にもっとも拾われにくい伏線のはり方なのだそうです。

探偵が現場検証をしている際に、「ん?なんだこれは!」みたいな発見をしたという文章があったとします。そのセリフの直前に探偵が見た品の方が重要な伏線だった場合、読者はそれがなんだったのかを忘れてしまうものなのだそうです。 

この叙述トリックがEP6でなされているのでしょう。うまいやりかたです。

 

 

 

 

 

 

その後、ラウンジに集合して話し合いになりました。そこにエリカも合流します。このときのシーンでは、エリカのことを誰一人「エリカちゃん」などと言っていません。彼女に対して接する態度は、霧江に対して接していた態度だったとしてもまったくおかしくないシーンに仕上がっています。

ただ、蔵臼と郷田が離れてからの会話から変わります。ですから、蔵臼たちがいたシーンは真実で、離れた後のシーンは幻想描写だということになるわけです。

 

 

 

 

 

 

エリカがいとこ部屋から脱出し、屋敷の玄関で魔女の手紙を発見したことも、言わずもがな幻想描写です。手紙にエリカの名前が登場しますからね。となれば、エリカ(霧江)はなぜ戦人の客室に向かったのかということの、人間の動機を構築しなければなりません。エリカは魔女の手紙に誘導されて戦人の客室に行ったのですから、その手紙自体がなかったのならば、エリカが戦人の客室に急いで向かう理由を別に用意しなければ、行動としては不自然だからです。

本文でも示しましたが、私は「霧江が戦人を殺し損ねたかもしれないと危惧したから」だと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦人の客室での赤字バトルで最も蔑ろにされているのも、人間の動機です。クローゼットに隠れようがベッドの下に隠れようがなんだっていいんですが、なぜそんなことをしたのか、という人間の理屈の説明がまったくされていません。駒がメタ世界のやりとりを把握することはない、という当たり前すぎる観点から、「メタ世界のバトルに勝つため」というメタ的動機ではない動機を考えてみましょう。

 

まず「私の入室時、戦人は客室内のどこかに隠れていたことは確定する」という赤字があるため、戦人が隠れていたことは間違いありません。”隠れて”が結果なのか行為なのかによって解釈が分かれますが、結果の解釈は本文で示しましたので、ここでは行為という解釈で進めていきます。

 

隠れた理由は霧江から逃げるためでしょう。一旦殺されたかと思った戦人ですが、なんとか致命傷を避けられて気を取り戻し、そしたらまた霧江が入室してくる気配を感じたので、隠れてやり過ごそうとしたというところでしょうか。

 

そして、「私がバスルームにいる間しか脱出チャンスは存在しない」が示すとおり、霧江がバスルームに入っている間にクローゼットから出て退室したのでしょう。嘉音パートの幻想描写では、血だらけで客室を出たすぐのところで倒れているのが発見されています。まさに、息も絶え絶えに霧江から逃れようとしたことが表現されているのです。両手の生爪が剥がれて血塗れになっていたことが描写されていますので、霧江は拷問でもしたのかもしれません。ああそうか、ここで須磨寺霞の姉という設定が効いてくるわけですか。コワすぎる…。

 

そう考えれば、第1の晩で戦人を仕留めきれなかったのも納得です。拷問で時間をかけていたぶるつもりだったのですね。エリカが戦人を甚振るあの幻想描写は、霧江が戦人にしていたことを暗示する表現だったとは…!


戦人はロジックエラーの客室から声を外に届けることができなかったことが描写されていますから、霧江は拷問の手始めとして戦人の声帯を潰すところから始めたのでしょう。そしてお楽しみの最中に蔵臼たちが客室の前まで来てしまったので、霧江は中断せざるをえなかった。戦人は拷問の最中に気絶してしまったのでしょう。運良く蔵臼たちがそれを死んだと思い込んでくれたことで、そのまま立ち去ってくれた。気絶してる様子が死体と見紛うほどだったとは、いかに凄惨な拷問だったことでしょう。バスルームに残されたニッパーとハリガネ、それで一体何をしていたのか、想像するだけで痛いよぅ☆

 

蔵臼たちが立ち去ってくれた後、霧江はそのまま拷問を再開してもよかったはずですが、そこはキレる女ですよね。彼らの会話ので別のところでも殺人が起きたかのような発言があったので、まずはそれの全容を把握しないと自分のプランにも影響してくると思ったのでしょう。一旦戦人は諦めて、彼らが指摘した現場に向かうことにしたのです。

 

ただ戦人に逃げ出されても困るので、退室した際に扉に封印を施した。これはエリカが行ったガムテープの封印なんかじゃありません。あれを封印と表現するから混乱するのですが、あれは封印というよりもマーキングです。そこを通過すれば通過したことが分かるようにしてある、というだけで、通過自体を防ぐものではありません。そうではなく、霧江は文字通りの封印を行った。南京錠か帽子掛けのカンヌキで。それが戦人の客室の赤字で表現される封印の実体です。

 

そして全容把握を終えた霧江は、隣部屋を脱出した後、とっておいたお楽しみを再開するべく戦人の客室に向かったのです。しかし戦人に逃げられてしまった。逃げ出す途中で力尽きてしまった戦人を、紗音は発見した。ここから紗音はどういう行動をとったのかを、赤字と照らし合わせながら見ていきましょう。

 

 


 

ここの解釈の肝は、紗音はクローゼットに隠れ直したわけではない、ということです。駒のエリカが発見できなかったのは戦人だけであって、バスルームから出てきた後の捜索を、エリカはゲーム盤では行っていません。ゲーム盤の描写は、バスルームから出てきた直後に終わっているのです。ですからカンタンにいうと、紗音は”隠れる必要がありません”。

「バスルームから出てきた後の客室内も、誰の姿もない」ということを示す赤字もなければ、描写すらも存在しません。当然そうであると読み手側が思い込んでいるだけです。客室内に戦人と嘉音さえ存在しなければ、紗音が堂々とベッドルームのどまんなかに仁王立ちしていたとしても、赤字には一切抵触しないのです。

 

人間の理屈においても、紗音が隠れる必然性をうまく説明できません。しいていえば「霧江の不意を打つため」くらいでしょうか。この可能性はないこともないとは思うのですが、ベアトとエリカの決闘というメタ世界のバトルがわざわざ銃であることも踏まえれば、その様子はまさに紗音と霧江のバトルの様子だったと推測され、不意を打つつもりが彼女にあったとは考えづらいと私は思っています。

ただ、エリカがクローゼットを蜂の巣にする描写もありますので、これを真と捉えれば、クローゼットに隠れていると思った霧江が散弾銃でクローゼットを打ったけど誰もいなくて「あれ?」と思っているスキにベッドの下に隠れていた紗音に射殺された、という流れはありえますが。ただこれも、クローゼットに隠れているのは戦人だと霧江は思ったはずで、拷問するつもりだった戦人をあっさり殺そうとする行為自体に不自然なカンジがします。

 

いずれにせよ、客室を出たすぐのところで倒れている戦人を発見した紗音は、客室内に侵入し、霧江とバトって、彼女を射殺した、これが赤字に抵触しない人間の真実です。 

 

 

 

 

 

 

ところで、この最終局面の解釈は、二人とも銃を所持していたはずだと私は思っていますが、ではいつ銃を手に入れたのかということを最後に考察していきたいと思います。

 

紗音はこの島の主なので、隣部屋を抜けだした後、どこかに隠してあった銃を手にして戦人の客室に向かった、という解釈でいいと思います。なら霧江はいつ銃を手に入れられたのでしょう。

碑文を解いた際に紗音から譲渡された、というのはちょっと考えづらいと思っています。ありえなくはないとは思いますが、紗音はEP6ではゲームを行っていないのですから、碑文を解いた褒美に銃をプレゼントするという展開は、うーんどうなんだろうと訝ってしまいます。

 

それよりも、銃を所持している誰かから手に入れた、とする方が自然な解釈だと思います。これに該当する人物は、秀吉しか考えられません。それ以外の人物では、ゲーム盤の流れが不自然になってしまうからです。

秀吉から銃を手に入れたとするならば、隣部屋にいたとき以外にないでしょう。ではなぜ秀吉から銃を手に入れることができたのか。譲渡はありえないでしょう。となれば、強奪しか考えられません。

 

なぜ強奪が成立するのかといえば、秀吉が死んだから。隣部屋の他のメンバーがいる中でなぜそれが成立するのかといえば、他のメンバーも死んだから。これが最も自然な解釈になるんでしょうね。本文の後半でもこの解釈を記しましたが、おそらくこれが正解のようです。EP3で霧江が銃を手にする経緯とシンクロする真実ですから、「EP6は今までのゲームの解答編である」という表題に相応しい構成になっているということなのでしょう。

 

ちなみに、隣部屋でのやりとりでは譲治が「エリカちゃん」などと発言していますから、幻想描写であることは間違いありません。隣部屋でなされた会話は、実際あの場ではなされていないということの証なのですから、実際は何が起こっていたのかを別の伏線から読み解く、この過程がEP6を理解する唯一の方法なんですね。

 

 

 

 

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