うみねこ紫ってコミックだったんですね。挑戦してみました。
以下です。
うみねこ本編もそうでしたが、ゲーム版を紐解く際に重要なのは、事実認定です。
起こったことは何なのか。普通に読者が認識する前提は正しいのかどうなのか。
ここに幻想描写で真実を隠したのが本編です。紫では、
ベアト:「うむ今回は魔法なしだとも」
だそうなので、幻想描写がありません。探偵のエリカがその場にいなくても、主人公の戦人がその場にいなくても、描かれた描写が真実であることが確定しているのが紫なので、ずいぶん親切設計です。
ですが、やはりうみねこっぽいごまかしが多々ありました。
まず、マスターキーの扱いについてです。
書斎の鍵と 倉庫の鍵と マスターキー以外の鍵は存在しないこととする
となっているのに
エリカ:「手錠の鍵は戦人さんにお預けします」
とエリカが発言しています。
手錠の鍵は存在しないにもかかわらず、エリカの紫は真実なのですから、解釈変更が必要になります。
どうすればいいのかといえば、マスターキーは鍵穴がある限りいかなる鍵をも開錠することができるという赤字から、手錠の鍵とはマスターキーのことであると変換可能なのではないかと思われます。
手錠の鍵 = 手錠を開錠できる鍵 = マスターキー
ということです。
戦人:「倉庫の鍵はマスターキーを除けばこの一本だけだ」
という表現が真実として許されているので、「倉庫の鍵」とは固有名詞ではなく通称であることがわかるわけですね。もし「倉庫の鍵」が固有名詞ならば、倉庫の鍵にマスターキーは含まれないので、マスターキーを除くという表現がおかしいからです。ですから「手錠の鍵」も通称として捉えてもいいわけなので、「手錠の鍵は戦人さんにお預けします」も、「手錠を開錠できる鍵(マスターキー)は戦人さんにお預けします」という解釈が許されるのです。
このことで最も重要な事実は、エリカはマスターキーを持っていたということです。しかしマスターキーはすべて犯人に回収されているはずです。エリカが所持しているはずがありません。と、ふつうはこういう解釈になりますが、ここにうみねこっぽいごまかしがあります。
マスターキーを犯人が所持しているという前提は、実は確定的事実ではありません。そのような赤字も紫字も存在しません。むしろ、
絵羽:「鍵は開いていたわ 犯人はマスターキーをもっているもの それで開けたのよ」
戦人:「倉庫の鍵はマスターキーを除けばこの一本だけだ だが 犯人はマスターキーを持っている」
のように、犯人がマスターキーを所持していることを確定的事実だと考えなくていいよと捉えられる紫の使われ方をしています。
それでも、
エリカ:「マスターキーも全て抜きとられています」
が真実なので、誰かがすべて抜きとって所持しているわけですね。
ということで、すべてに矛盾なく解釈する方法はただ一つです。抜きとったのはエリカだったということです。
彼女は、これから起こすであろう犯人の行動を絞り込むために、マスターキーを一旦すべて回収したのです。ガムテープの封印の存在意義もその発想から生まれているのですから、エリカの行動に何の矛盾もありません。そしてそのうちの1つを犯人でないと確信している戦人に渡すことによって、犯人を誘導することを狙ったわけです。
ちなみに、犯人の計画にマスターキーはまったく必要ありません。籠城を無意味にするために抜きとったのではと考えがちですが、チェーンロックを掛けられたらマスターキーを持っていても無意味なうえ、すべて抜きとる意味もまったくありません。生き残った者たちがマスターキーを所持していたところで、犯人にとって不都合なことは何もないからです。一つ持っていれば十分なはずです。むしろ所持品検査をされたらアウトじゃないですか。
まとめると、マスターキーを全て抜きとる理由が、エリカにはあって犯人にはないのですから、これが自然な推理になるということですね。
退室時の
エリカ:「調べたいものは調べ終えましたから」
は、マスターキーのことを示していたのですね。
さあそうなると、すべての事件において犯人がマスターキーを所持していたという大前提が崩れるわけですから、もっとも注視すべき事件は夏妃と朱志香が殺された事件であることが浮かびあがってきます。
発見時、倉庫は密室でした。犯人が侵入するために必要な鍵の所在は、エリカが所持するマスターキー3本と、戦人が所持する倉庫の鍵とマスターキー1本だけです。
戦人:「さっき扉だけでなく屋敷のすべての窓も封印をした 封印が保持されている限り 各部屋に出入りすることは 不可能だ」
があるので、エリカを閉じ込めた屋敷の客間もこれに含まれます。もし朝になってこの封印が破られていたのなら、エリカは犯人の最有力候補として満場一致するはずですが、そのような展開になっていないということは、エリカのいた客間の封印は破られていなかったことになります。
となれば、犯人はエリカからマスターキーを入手することはできないわけで、残るは戦人から入手する可能性しかありません。
ということで、これより以後の私の推理は、犯人(共犯者)を霧江に確定して話を進めることになります。
戦人:「親父は 人を殺したりなんてしねえよ」
により留弗夫は犯人ではなくなるので、
留弗夫:「戦人はぐっすり眠ってたぜ 俺たちは朝まで部屋から出なかった」
が真実となり、戦人が部屋に朝までいたことが確定します。
となれば、戦人から鍵を入手できるのは留弗夫か霧江しか考えられず、留弗夫が犯人ではないのですから、霧江が抜きとったと考えるのが自然であることになるわけです。
戦人:「鍵はずっと俺が持っていた!誰にも渡してないぜ!!」
とのことなので、倉庫の鍵はずっと持っていたけど、マスターキーを抜きとられて使われたのだという解釈でいいはずです。
霧江の行動を確定していきましょう。
まず、朝まで扉の封印が破られていなかったことが戦人により確認されているので、霧江は窓から出て殺しに行ったことになります。
留弗夫:「戦人はぐっすり眠ってたぜ 俺たちは朝まで部屋から出なかった」
の「俺たち」に霧江を含める必要はありません。「俺と戦人」でいいわけですね。これもうみねこっぽいごまかしです。
私は基本的にうみねこにおいて、「たち」とか「二人」とかいう表現をまったく信用していません。ここを疑っても良いと、本編で何度も主張されてきたからです。名前を列挙しなければ、人物の特定はされないというのがうみねこです。
今回はさらにわかりやすい例があります。
戦人:「俺たち全員は…つまり俺と親父 霧江さんには夏妃伯母さんと朱志香は殺せない」
これも、「たち」の詳細を列挙してわざわざ "言い直している" のです。「俺たち全員は夏妃伯母さんたちは殺せない」ではダメだということの、非常にわかりやすい例です。
霧江に夏妃たちは殺せないのだから犯人ではないと捉えがちですが、ここにもごまかしがあります。霧江には「夏妃と朱志香は殺せない」のであって、どちらか片方ならば可能なのです。
殺したのは朱志香だけだったのでしょう。夏妃は死亡を免れ、発見時にまだ息はあった。しかし発見時に戦人が、
戦人:「そんな…夏妃伯母さんが殺された…」
と発言しています。
これは、発見時に夏妃に真っ先に近づいた絵羽を犯人に据えることで、自然な解釈になります。
絵羽は、夏妃にまだ息があることがわかり、死んでたんならそのまま死んでた体でいろ的なことで、とどめを刺したと考えられます。その動機はとても理解しやすいですよね。
絵羽:「倉庫は私たちが来るまで密室だったってこと!?」
も、この時点で犯人となった絵羽は嘘をつけるので、霧江は倉庫に侵入できます。
南条:「亡くなられたのは日が昇る前でしょうな…」
は、朱志香のことだけであって夏妃を含める必要はないと解釈できますから、絵羽の犯行を否定されません。
そして、夏妃を絵羽が殺してしまった時点で、霧江は夏妃をもう殺せないのですから、戦人の「霧江さんには夏妃伯母さんと朱志香は殺せない」が真実であっても矛盾はないわけです。
そしてまさに、エリカはこのような誘導を行いたかったのです。
倉庫の鍵の所在をエリカはコントロールできませんから、マスターキーを戦人に渡すことで、倉庫の中の夏妃たちを殺せる人物をマスターキーから絞りたかったのです。
結果的に倉庫の鍵も戦人に渡っていたので、エリカとしてはこの時点で犯人を留弗夫一家に絞れていたということになります。
ただ、留弗夫たちの完璧なアリバイ証言を聞き、3人とも犯人なのかどれか二人が犯人なのか一人だけなのか、確定できないと思ったのでしょう。とりあえずその場はスルーしたというわけです。
そして焦点が絵羽に移ります。
夏妃が犯人だと思っていたのに、あの状態で見つかったということは、犯人でなかったことになる。となると怪しいのは留弗夫たちか?いやそうとしか考えられない。許せない、殺してやる。
このような思考を展開させた絵羽は、留弗夫たちを殺す計画を思いつきます。それが、ゲストハウスにいるいる詐欺からの留弗夫夫妻銃殺事件です。
絵羽はゲストハウスにいると見せかけて、入った後にすぐに脱出したのです。これにより、
戦人:「みんなでゲストハウスの窓と扉を封印した 封印が保持されている限り絵羽伯母さんがゲストハウスを出入りすることは不可能だ」
も、「中にいる絵羽が外に出られない」ではなく「外にいる絵羽が中に入れない」という真実があるだけと捉えることで、絵羽のアリバイが崩れるのです。
そして留弗夫たちを銃殺した絵羽は、戦人がゲストハウスの扉の封印を解除して中に入った後、すぐに後ろからゲストハウスに入り、絵羽がいると戦人たちが思い込んでいる部屋と内線でつなげておいた部屋に入って、まだ絵羽がゲストハウスの部屋にいたままだったことを装ったのです。
そしてその事実を知ったエリカは、留弗夫たちを殺せたのは絵羽しかいない、やはり犯人が留弗夫たちで、絵羽がその復讐のために殺したのだと確信したのです。
留弗夫たちが殺された現場には七杭がありませんでしたから、それまでの犯人とは別人が犯したものであることは明白ですから。
そしてもう一つ。その論理でいくなら、戦人も絵羽の復讐の対象だろうなと、エリカにはわかっていました。夏妃殺害のアリバイを崩すには、留弗夫一家全員が犯人と絵羽は考えるだろうことが明らかだからです。
だからエリカは、戦人が殺されることが予測できたのです。そしてそれが事件の終幕であることも。実行犯である霧江が死に、絵羽の復讐が完了し、単独の南条にアリバイを作れない以上、もう殺人は起きないことが予測できるからです。
だからエリカは
エリカ:「これで事件も終わりですね」
と言えたのです。
そして戦人は絵羽に殺されました。
エリカ:「絵羽さんがいる部屋の封印も 破られてはいませんでした 戦人さん一家の殺害は 彼女には不可能ですね」
も、夏妃たちの件と同じロジックです。
戦人たち全員を殺すのが不可能でも、どれか二人なら可能なのです。ここでようやく南条の出番というわけです。
南条が殺したのは一人だけ。アリバイを確保することが目的だった南条が、アリバイを確保しつつ殺せたのが霧江です。
絵羽は霧江を殺しきれなかった。南条が診断した時にはまだ息があったのです。そこで南条はとどめを刺した。
動機はもちろん、エリカが推理したとおりです。はじめから共犯者ごと葬るつもりだった南条としては、訪れたチャンスを有効活用したということです。
楼座:「戦人くんにも南条先生にも私にも真里亞にも留弗夫兄さんと霧江姉さんを殺すのは不可能よ」
も、同じロジックです。
南条は「留弗夫と霧江を殺せない」のであって、「霧江だけなら殺せる」のです。
南条:「留弗夫さんも霧江さんもこの傷では即死だったでしょう…」
も、もちろん嘘です。
そして南条が霧江を殺してしまったので、絵羽には「戦人さん一家の殺害は不可能」となるわけです。
「絵羽さんがいる部屋の封印も 破られてはいませんでした」は、ゲストハウスの各部屋はガムテープの封印は行ってませんから、「絵羽のいる部屋の封印」とは、窓のこと以外にありません。絵羽は窓から出なければいいだけということです。
戦人殺害の直前の戦人のセリフの、
戦人:「絵羽伯母さんはゲストハウスの一室に籠城して出てこようとしない 窓と扉は封印されていてそれは今も保持されている」
の「扉」とは、正面の扉のことであって各部屋の扉ではないと考えればいいのです。各部屋の扉にガムテープがある描写は存在しませんから。
絵羽は戦人殺害時に、正面扉の封印は破らないと殺しにいけません。だから、それはエリカ確認時には破られていたのでしょう。エリカは部屋の封印の話をしただけで、正面扉の封印の話はしていません。ですからゲストハウスのすべての封印の話に矛盾することなく、絵羽は犯行が可能なのです。
最後に、もっとも難解な譲二たちの殺人の詳細を見ていきます。
チェーンロックの密室から紐解きましょう。
チェーンロックを解除できるのは、第一の晩で死んだ6人を除けば夏妃と朱志香だけです。これで犯人がこの二人のどちらかであることが確定したと捉えがちですが、ここにもやはりごまかしがあります。
チェーンロックは一体いつ切断されたのでしょう。犯人が譲二たちを殺害するために切って侵入したと思われがちですが、実は戦人の回想シーンにおいて、チェーンが掛かったままの部屋の前で戦人とエリカと南条が立ち往生しているさまが描写されています。
戦人とエリカが駆けつけた時、扉はチェーンでふさがれていたということですね。
これはつまり、チェーンが切断されたのは事件発覚後であることを示しているのです。チェーンを掛けたのは、最初に現場にいた者が譲二の死体を見せられないと判断したためと考えられます。入っちゃダメ!見ちゃだめだ!ってやつです。
これにエリカが反抗したのでしょう。現場検証は探偵の権利だから開けなさいとかなんとか言って、最終的に夏妃を呼び出して、チェーンを切断させたのです。
そしてようやく現場検証ができる状態になった。ここからゲーム版が描写されているということです。
そして楼座たちが最後に到着した。チェーン切断のごたごたを知らなかった彼女らは、
真里亞:「部屋のチェーンは番線カッターで切られているよ 無理やり押し入ったんだね」
と、犯人が切ったものと勘違いしたというわけです。
これにより、霧江のアリバイが崩れていきます。
霧江:「私はずっと留弗夫さんといたわ」
留弗夫:「俺も霧江も姉貴の悲鳴が聞こえるまで一歩も部屋を出てないぜ」
霧江は嘘でいいわけですが、留弗夫が霧江のアリバイも主張してしまっています。しかしこれは、通常考えられる前提の、「お前らと別れた後ずっと霧江と部屋にいて、事件発覚までそこから動いてないぜ」という主張であることは、実はありえないのです。
なぜならば、絵羽がウィンチェスターについて、
絵羽:「四丁あったから留弗夫たちも一丁もってるわよ」
と発言しているからです。
留弗夫たちがウィンチェスターを手に入れるためには、一度取りに行かないとなりません。絵羽が、留弗夫たちの分まで取りに行って手渡したとは絶対に考えられないからです。留弗夫たちは信用できるから、味方である彼らにもウィンチェスターを持っていてもらおうなどと、絵羽が考えるはずもないでしょう。
そして、留弗夫たちがウィンチェスターを持っていることを絵羽が知っている時点で、少なくとも絵羽と留弗夫は一緒に行動しています。
となれば、留弗夫は少なくともずっと部屋にいたわけではないことが明白になるのです。
仮に絵羽と留弗夫がウィンチェスターを取りに行ったと考えれば、霧江は自由時間を手にすることができます。その後に留弗夫たちが帰ってくる間、霧江に犯行を行う猶予が生まれるのです。
ここでもう一つピックアップします。
霧江と留弗夫のこのアリバイ発言に、「夫婦のアリバイ主張など、アリバイになってない」的なツッコミを誰も入れないのが不自然な仕上がりになっています。
現に夏妃殺害の件では、留弗夫一家のアリバイ主張は、楼座によって絶対性がないことをつっこまれていますし、書斎での6人殺しの際には、霧江自身が、アリバイはあるけど客観性はないと発言しています。
にもかかわらず、この第2の事件では、霧江たちのアリバイが通ってしまっていて、アリバイがないのは夏妃と朱志香だけとなってしまっています。(後にエリカによって、絵羽のアリバイがないことも議題に上がりますが、霧江たちには追及の手が及ぶことはありませんでした)
これはつまり、留弗夫たちのアリバイを、第三者が保証してしまっていることが背景にあると推察できるのです。
それは南条だったと考えればつじつまが合ってきます。
ラストに南条は、アリバイ主張が通るようにこの事件を行ってきたと発言していますが、実行犯のアリバイについては言及していません。実行犯のアリバイも同時に重視しなければ、南条の計画も破たんする可能性があるのです。
つまりどこかで、実行犯のアリバイ確保に南条が協力していると推察できます。これがまさに第2の事件でなされたのではないでしょうか。
絵羽と留弗夫がウィンチェスターを取りに行く際、その場に南条もいたのでしょう。そして霧江は、「南条先生と部屋にいるからあなたが行ってきて」などと言ったのでしょう。そしてその間に、霧江は犯行に及んだのです。
そして、絵羽と留弗夫が戻ってきて、留弗夫はそのまま南条と霧江とずっと部屋にいた。絵羽はその後部屋に戻らずふらっと散歩に出て一人になってしまったので、アリバイない時間帯が生まれた。一方、留弗夫も霧江も一人になる時間帯がなかったためにアリバイが確保できた。留弗夫も霧江も、アリバイ主張を第三者である絵羽と南条が保証しているために、彼らのアリバイ主張が客観性が帯びたのです。
この考えに、より信憑性をもたせるものが、南条の現場到着のタイミングです。
霧江たちが殺された事件の際、楼座と真里亞と南条が駆けつけましたが、南条はいちばん最後でした。急いで駆けつけると、南条は真里亞よりも遅いということの証左ですね。年を鑑みれば、まぁ当然ちゃ当然です。
南条:「戦人さんらの戻りが遅いのが気になりましてな 三人でようすを見にきたら絵羽さんの悲鳴が聞こえたのです」
譲二たちの事件の際、南条が楼座と真里亞と一緒にいたのなら、
戦人:「俺たちが最初だった親父と霧江さんの後ですぐに南条先生が慌てて来てくれたんだ」
楼座:「私と真里亞が来たのは いちばん最後だったわ」
がおかしいです。南条が楼座よりも早く到着できるのは、自然とは言い難い現象です。
さらに前記したように、楼座到着は番線カッターのごたごたを経過した後、つまり南条が到着したずいぶん後なのです。
つまり、南条の発言の悲鳴が聞こえた時に一緒にいた「三人」とは、楼座と真里亞ではなかったと考えることができるということです。うみねこ流のごまかしですね。
楼座:「私は南条先生と真里亞といっしょだったわ」
真里亞:「うー 真里亞はずっとママとゲストハウスにいたよ」
楼座と真里亞は「ずっと」一緒でしたが、南条は楼座と「ずっと」一緒にいたわけではありません。
最初は一緒にゲストハウスにいたのでしょう。しかし途中で南条は、「戦人さんらの戻りが遅いので見に行ってきます」などと言って彼女らと別れたのです。
そして霧江と留弗夫と合流した。同時に絵羽が部屋から出てきて、「ちょうどよかったわ。ウィンチェスターを取りに行こうと思ったんだけど、留弗夫も来る?」となって、上記の展開になったということが連想できるわけです。
そして、事件が発覚します。第一発見者は絵羽であると思われがちですが、これも前提がちがっています。
戦人:「俺たちが最初だった親父と霧江さんの後ですぐに南条先生が慌てて来てくれたんだ」
この、ちょっと日本語としておかしなセリフは、通常
「俺たちが最初だった 親父と霧江さんの後で すぐに南条先生が慌てて来てくれたんだ」
と捉えがちですが、
「俺たちが 最初だった親父と霧江さんの後で すぐに南条先生が慌てて来てくれたんだ」
でいいわけです。
最初に到着したのは霧江たちだったのです。これで、留弗夫のアリバイ発言に説明がつきます。
留弗夫と霧江と南条は、南条の「戦人さんらが心配です」などという発言により、探しに出かけます。そして、 "秀吉の死体" を発見したのです。
実は、譲二と秀吉が殺された部屋は別だった。これを示す伏線が、
留弗夫:「事件のあった部屋には犯人の何らかの手掛りが残ってるはずだ 警察が来るまで絶対 誰の出入りもできないようにした」
というセリフです。
譲二たちの部屋には、もう絶対に出入りできないはずなのに、エリカはラストに2度目の現場検証を行っています。
これは、留弗夫が誰の出入りもできないようにした部屋は、譲二たちが横たわるあの部屋ではなかったということを示しているのです。
その部屋は、事件のあった部屋でなくてはなりませんので、秀吉が殺された部屋と捉えるのが自然だということなのです。そしてその後に、譲二のいる部屋に秀吉の死体は移された。不憫だったからでしょう。
秀吉の死体のあった部屋に、南条たちは第一発見者として入室した。
そして、南条が検視をしている際に、隣の部屋から譲二の死体を見つけた絵羽の悲鳴が上がったのです。そこで慌てて絵羽の下に駆けつけ、譲二も殺されていることを留弗夫はその時に知ったということに流れになります。
これで、
留弗夫:「俺も霧江も姉貴の悲鳴が聞こえるまで一歩も部屋を出てないぜ」
は、秀吉が殺された部屋から一歩も出ていないという真実があるだけと捉えることで、留弗夫のセリフを紫色に変えることができるのです。
留弗夫としては、ウィンチェスターを取りに行ったことをあまり大っぴらにしたくなかったのでしょう。事実、留弗夫たちがウィンチェスターを持っている様子は描写されませんでした。なるべく隠したかったのです。理由は、犯人の意表をついた隠し玉にしたかったとか、あるいは銃を所持することで無用な疑いを招くことを恐れたとか、いろいろ説明はつきます。
霧江が「私はずっと留弗夫さんといたわ」と言ったので、自分と霧江が離れた時のことをこの場で話すことではないと霧江は判断したんだな、という留弗夫の判断があり、一緒にいた時のアリバイとして上記のような発言になったのだと推理できるわけです。
第二の事件の詳細を、時系列でまとめてみます。
楼座と真里亞とゲストハウスで一緒にいた南条は、理由をつけて屋敷に移動。狙いは霧江のアリバイを作るため。
➡そして留弗夫と霧江と合流
➡譲二たちが寝入ったことを確認した絵羽は、ウィンチェスターを取りに行くため退室。
➡絵羽、南条たち3人と合流。
➡絵羽と留弗夫は一緒にウィンチェスターを取りに行く。
➡霧江、譲二たちの部屋に侵入。リスク回避のため、一人ずつ別の部屋で殺すことに。
➡まず秀吉を隣の部屋に呼び出し、殺害。南条も一緒だったため、秀吉は怪しむことはなかった。
➡元の部屋に戻って、「霧江叔母さん、父さんは?」などと言って起きかけていた譲二を殺害。眼鏡をはずす。
➡霧江と南条、退室。
➡絵羽たちが戻ってきて再び4人が合流。絵羽はそのままふらっと散歩に。
➡「戦人さんらが心配」などという南条の発言を受け、3人は屋敷の散策に。
➡秀吉の死体を発見。
➡絵羽、散歩から戻ってくる。隣の部屋の扉が開けっ放しになっているので、覗いて秀吉の死体を発見。
➡ショックを受けるも、「譲二は?譲二はどこ?」などと言って、元々いた部屋に駆けつけ、譲二の死体を発見。悲鳴を上げる。
➡留弗夫と霧江は、絵羽の下へ。譲二の死体を発見。扉の前あたりにいた南条は、駆けつけてくる戦人とエリカを視認。
➡「戦人さん、入っちゃいかん」などと言って戦人たちを制止。
➡霧江と留弗夫は、チェーンロックを掛ける。
➡エリカ憤慨。現場検証は探偵の権利だとかなんとか言って、開けるよう指示。
➡夏妃を呼び出し、チェーン切断を指示。
➡その間にエリカは隣の秀吉の現場検証を行う。
➡チェーン切断。留弗夫が、秀吉の死体を譲二の隣に運ぶ。
➡南条の帰りが遅いと不安になった楼座は、真里亞と屋敷に行く。現場に最後に到着。
➡留弗夫、秀吉死体現場を入室不可能なように、物で壁を作って封印。
エリカは最終の現場確認の際に、扉は開けたけど中の様子が描写されずに扉の前で会話しているシーンがあります。
通常、この部屋は霧江たちの現場と思われがちですが、このシーンは秀吉の殺害現場の扉を開けたら、壁が立ちふさがって中に入れなかったシーンだということです。
エリカがマスターキーから留弗夫たちを犯人候補に絞り込んだ時、同時に南条が犯人であることがわかったのも、この第2の事件のアリバイがあったからです。霧江たちのアリバイを南条が保証していることから、これで南条も犯人一味だと確信したということです。
余談ですが、チェーンロックの掛かった譲二たち部屋に、何者かがそおっと侵入するシーンが描写されています。これは、カメラワークでそうなっているだけで、実は、何者かが「部屋を出て行った様子」を描写したに過ぎないことが、そういう視点で見直せばわかると思います。
これは要するに、絵羽がウィンチェスターを取りに行くために、譲二たちが寝入ったことを見届けてから部屋を退出したシーンだということです。
そして、もちろん絵羽はその部屋を施錠する手段をもっていないわけですから、霧江は譲二たちの部屋に何の障害もなく侵入して殺害することが可能なのです。やっぱりマスターキーは要りませんね。
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