前項(暇潰しに怪死事件を振り返る)を踏まえた話です。
ココ見てないと、これ以降の話がイミフだと思うよ。
では、梨花の計画を順に追っていきましょう。
彼女の計画は、どこから始まっていたのでしょうか。沙都子の両親を消したかったのですから、2年目からでしょうか?それとも1年目から?いえ、どれもちがいます。ダム計画反対運動。実は、この反対運動の首謀者は梨花ちゃんです。このときからすでに、梨花の計画はスタートしていたのです。
暇潰し編
赤坂「………こんな村が、…湖底に沈むことになってるなんて、…信じられないよ」
梨花「…沈みませんよ。ダムの計画はもうすぐなくなりますですから」
赤坂「………もうすぐ、……なくなる…?どうして、……そう言い切れるんだい?」
梨花「…それはなのです。…………。………赤坂が何をしてもしなくても。…ダム計画は今年で終わりになってしまうのです。もう決まっていることなのですよ」
ダム計画が実現してしまえば、沙都子と離れ離れになってしまう。それは絶対に無理。反対するのも当然ですね。
しかしそれだけではありません。
ダム計画が実現することで、この村が湖に沈む。それも絶対に無理だった。地理的な問題というよりは、地政学的な問題で。
梨花にとって、この雛見沢という場所は、計画上で絶対に離れられないある事情があった。それは、オヤシロさまという古手の先祖がこの地で共存を希望した理由と、まったく同じ理由です。それを知っていた梨花は、実はこの村の住人の誰よりも、この地がダムに沈むことを止めたかった。
それこそ鷹野と同レベルで。
どういうことか。
鬼ヶ淵村の伝承の、おそらくすべてを説明できる、古手家の真実。
それは、この雛見沢村でしか実現できない、「魔法の薬」の精製のためだったということなのです。その薬とは、「人間をコントロールできる」類のものだった。
古来からヒトは、樹木をすりつぶして様々な用途で薬を精製し、使用してきました。その技術とノウハウを、先代の古手は会得していた。そしてそれを秘伝として、代々受け継いできたのです。
先代の古手が雛見沢村を訪れた際、ある特定の樹木の存在を確認したのでしょう。それは日本ではとても珍しいもの。気候的にはおそらくこの雛見沢村でしか生息していないのではないかと思われるものだったのではないでしょうか。
だから先代の古手は、この地に住まうことを望んだ。その樹木から精製できる薬物を悪用することで、自らが神と崇められる存在になれることを知っていたからです。例えるなら、新興宗教の生き神様のようなもの。住人のだれも知らない薬物の使用により、古手は如何様にも奇跡を表現できたのです。
罪滅し編
きっと、太古の鬼ヶ淵村の仙人たちにも同じような体験をしたものがいたのではないだろうか。その神秘体験を神の奇跡として語り継いだに違いない。確か、自然界の麻薬成分を呷って、自ら異常な状況に落ちることで神秘体験を得て、それを神との交信と称する儀式が、南米の原住民に伝えられていたなんてのを、民法の特番で見たことがある気がする…。
例えば、「アヤワスカ」と呼ばれる南米に生息する樹木から精製される「ハルミン」という成分は、幻覚作用があるうえに治療薬としても効果のあるものだったりします。
(抜粋)
南米のアマゾン川流域に自生するキントラノオ科のつる植物のバニステリオプシス・カーピ(以下カーピ)のこと。ハルミンを含むカーピと、ジメチルトリプタミン (DMT) を含む植物を組み合わせる。服飲すると、嘔吐を伴う強力な幻覚作用をもたらす。主に先住民族がシャーマニズムの儀式や民間療法、20世紀に創始されたキリスト教系のサント・ダイミなどで宗教儀式に用いる。ハルミンは、可逆性モノアミン酸化酵素A阻害薬 (RIMA) である
こういったことは、知っている者からすればただの医療行為でしかないわけですが、知らぬ者からすれば、人ならざる者が奇跡を起こしているようにしか受け取れないわけですね。
古手はもちろん、この秘法を誰にも教えなかったのでしょう。その秘術を可能にする樹木が雛見沢村にしかないであろうことも、誰にも教えなかった。その上で、先住民の間に徐々にその薬物を浸透させていった。そうして、先住民を自らの思うがままにコントロールしていったのです。
それこそが、鬼ヶ淵村の歴史の真実。
雛見沢症候群のホームシックの正体。
つまり、住人は古手によって薬物依存症にさせられていたということです。だから、雛見沢を離れると途端に離脱症状が始まってしまう。雛見沢に帰れば、古手に知らず知らずのうちにまた薬を盛られるため、離脱症状が治まる。だから住人は、雛見沢を離れられなくなっていったのです。
高野一二三博士の目のつけどころは間違っていなかった。ただ、雛見沢村出身の者がおかしな行動をとっていた、その原因を風土病だと決めつけたのが間違いだった。雛見沢村の出身の者は、古手によって薬物中毒にさせられていて離脱症状が起こっていたという、まさかの人の意志がそこにあったことを高野博士は見抜けなかったってことですね。
そして、この手法こそが梨花の計画の根幹。
彼女は、服毒させることで人をコントロールできたり、狂気に誘うことができたりする薬学を、祭具殿の秘伝の書から読み解いて会得していた。これを利用し、雛見沢症候群という科学者たちの思い込みを隠れ蓑に、ターゲットを思うがままに操ろうとしたのです。
梨花は、この土地でしかオヤシロさまの祟りを実現できない。服毒させる薬を精製できないのです。だから梨花は、なんとしてもダム計画を阻止しなければならなかった。
そのためにしなければならなかったのは、冷静な議論をさせないことだった。彼らが一旦冷静になってしまえば、ダム計画を受け入れ、補助金で引っ越してもいいかな、なんていう流れになりかねない。それを阻止したかった。だから梨花は、集会所にて、配られるお茶の中に、人を興奮に導く薬を盛ったのです。それは「カート(カチノン)」だと思います。
(抜粋)
カートの葉には、アンフェタミンに似た覚醒作用をもたらすアルカロイドの一種カチノン(Cathinone、(S)-1-フェニル-2-アミノ-1-プロパノン)が含まれており、新芽の葉を噛むことで高揚感や多幸感が得られる
(抜粋)
カチノン(Cathinone)とは、カートに含まれるモノアミンアルカロイドである。化学構造的には、エフェドリンやカチン、その他のアンフェタミンに類似している。
カートに含まれるカチノンという成分は、アンフェタミンと似た効果だそうです。アンフェタミンとは、覚醒剤、興奮剤みたいなもんです。アンフェタミンの効果は、ドーパミンとノルアドレナリンの増加を促します。モノアミン仮説に則れば、ノルアドレナリンの促進は、イライラと興奮を導くのです。この効果が、梨花の狙いだった。
雛見沢村にはカートが生息していた。梨花は、そこからカチノンを精製できること、その製法を知り、これを服毒させることで、人を興奮に導けることを知った。それを集会所で実行したのです。
カケラ 神主の憂鬱
古手神社の境内の中にある集会所こそ、鬼ヶ淵死守同盟の本部事務所であった。梨花は、湯飲み茶碗の後片付けを手伝っているが、その陰口はきっと耳に入っている。
集会所は古手の敷地ですから、梨花がお手伝いしています。集まった人たちに配られるお茶の中に、何かを混入するなんて容易いことです。
カケラ 地元説明会
体育館の中は怒号に満ちていた。
雛見沢ダム基本計画地元説明会。壇上で、役人の男が何かを言おうとする度に、満場の住民たちは一斉に怒号を浴びせ掛け、それを塗りつぶす。
……そんな光景を、僕(羽入)はみんなの後ろから見守っていた。みんなが、真っ赤な怒りにどんどんと染まっていく…。僕はそれを、黙って見ているしかできない……。せめてできるのは、……これから起こるかもしれない惨劇を、…今から詫びることだけだった。…ごめんなさい。
その結果がコレです。
住民が、話し合いにならないほど興奮しきり。暴言飛び交う説明会。うまくまとまるわけがありません。
羽入が見守ってますね。これは前項のとおり、傍観者だったということです。梨花が、彼ら住人を興奮に導き、それを見ながら笑っている梨花の裏で、善良な羽入は謝ることしかできなかった。ウチの梨花がご迷惑をおかけして申し訳ありません、と。これからさらに惨劇を起こしていくつもりのようですが、私には止められそうもありませんので前もって謝らせてください、と。
梨花が薬を精製していた痕跡、伏線となっているのが、目明し編における祭具殿内の祭壇前の情景の描写です。
目明し編
祭壇の上には、宗教的な意味合いのありそうな小物類が、ひな壇みたいに飾られていた。ここだけはよく手入れがされていて、指でなぞっても埃はつかない。つまりこれは、…………えっと……。
花瓶に添えられた花はしおれていない。……その花瓶の下には、この祭壇には似つかわしくない可愛らしいハンカチが敷かれていた。……雰囲気的に、古手梨花が普段使うハンカチの内のひとつだと感じる。
梨花は、少なくとも近々にここで何かの作業をしていたからこそ、祭壇前がキレイなのです。何をしていたかなんて、その正解が本編中に描写されたことなんてありません。小物が置いてありますね。何用の小物なんでしょうね。ひとつしかない。ここで樹木をすりつぶし、目的の成分を抽出していた。薬物の精製と保存を行っていたのです。
コメントをお書きください