綿流し編と目明し編において、梨花は人知れず、鉄平の排除を完了できていたものと思われます。それは、園崎上納金の強奪。これに鉄平は参画していた。リナは鉄平に内緒でやるつもりだったのにバレてしまったのでしょう。おかげで鉄平は、園崎の粛清対象になってしまった。これで、鉄平の人生は終焉を迎えました。
しかし、梨花の排除の対象は鉄平だけではなかった。実はもうひとりいたのです。それは鷹野三四。彼女も、梨花が排除すべき対象になってしまっていたのです。
キッカケは、鷹野のスクラップ帳です。スクラップ帳の意義は、鷹野の思惑で示していただきました。鷹野は、雛見沢村の歴史の暗部を探っていた。それが梨花にとっては非常にうざったいものだった。
古手が過去に行ってきた悪事をなぞることこそ、梨花の計画の根幹です。鷹野はまだ、その古手の悪事を雛見沢症候群だと勘違いしてくれていますが、出自を探られることで、いずれは古手の過去に辿り着く可能性があった。特に、古手家秘伝の巻物には、その悪事、薬物の製法が書かれているわけですから、祭具殿への侵入を狙っている鷹野の存在は、梨花にとって驚異以外のなにものでもありません。
鷹野は、園崎家にプレッシャーを与えるつもりでスクラップ帳を披露していたのですが、その実、一番プレッシャーに感じていたのは梨花だったのです。
だから梨花は、鉄平の再来という驚異がなくなった綿流し目明し編において、もうひとりの驚異である鷹野の排除を狙ったのです。やり方は、祭具殿の不法侵入を促すことだった。これで、御三家筆頭の園崎家の粛清対象になる。園崎家に、鷹野を殺してもらいたかった。
祭具殿の錠前は、昭和58年の綿流しの日の前に、簡易なものに付け替えるよう梨花が公由を説得しました。梨花がすることは、たったこれだけでよかった。これを受けた鷹野は、祭具殿への侵入計画を立てやすくなった。綿流しの日に鷹野が祭具殿へ侵入するように、わざと梨花は誘導していったのです。
ここで活躍するのが、沙都子のトラップです。吊ってある、非常に重たいカゴのようなもの。沙都子はこれが落ちるようなトラップを仕掛けていた。祭具殿を散策すると、それが落ちてくるようにしてあった。その役割は、侵入者を逃さないこと。カゴに閉じ込め、それが外せないために逃げ出すことができない、そういう類のトラップだったのです。
祟殺し編
……暴れた鎖の束の重みか何かで、他の金具が壊れ…、吊ってあった大きな鳥篭がひとつ、…ものすごい音を立てながら落下した。
カゴが落ちる音は凄まじいものです。必ず周りの誰かが気づく。すぐにお魎に報告がいく。鷹野は逃げられない。このような展開で、鷹野の人生を終わらせようとしたのです。
この計画が、綿流し編と目明し編において実行されました。だから梨花は、鷹野と富竹がどうなったかを把握することなく、彼らが死んだだろうことを言えたのです。梨花に報告が無くとも、園崎家が闇で鷹野たちを粛清しただろうことが分かっていたからだったのです。
皆殺し編
だから、鷹野に富竹を殺す理由が絶対にないなんて私にだって断言できなかった。そしてそれは、……今までに一度も考えたことのないことだった。鷹野が富竹を殺す……?…どうして??
これで上記の梨花の思考にも説明がつけられます。梨花は、鷹野富竹殺しの主犯が鷹野であることを、一度も考えたことがなかった。それは当然のことだったのです。なぜなら、彼女らが死んだのは自分の策略がうまくいったことの証であり、実行者は園崎家であることが分かりきっていたからだったのです。
目明し編
詩音「……古手家頭首として、今回の件はどこまで知ってるの?」
梨花「…富竹たちのことですか?」
梨花「…オヤシロさまの祟りなのですよ、としか言えないのです」
上記のセリフも然り。すべてが梨花の計略を示唆しています。鷹野富竹死亡事件とは、梨花にとって、梨花の思惑で起きたことを示すものだった。その真の実態である、鷹野の謀略になんて考えを及ばす必要がなかった。だから「オヤシロさまの祟りなのですよ、としか言えないのです」なんてセリフになるのです。
詩音「ならまだ終わってないよね?あと2人残っている。その2人はどうなるか、聞いてる?」
梨花「………別にどうでもいいと思いますですよ」
そして、それが完了した今、梨花は数年前に立てた自分の計画の完遂を実感した。もうしなければならないことは何もなかった。だからこそ、詩音や圭一が祭具殿に一緒に侵入していた、なんてことにまったく興味はなかったし、心底どうでもよかった。
圭一「「梨花ちゃん。……その猫さんは…どうなるんだろう。……忍び込んだ2匹の猫さんが…その……あの晩に………、」
梨花「…………富竹と鷹野ですか?……忘れると良いのです。……どんな死に方をしても、それは圭一とは関係のないことなのです」
これも言葉どおり。富竹と鷹野の死は、自分の策略の結果であり、圭一には関係ない事象なんだよと言っているのです。
ただ、なぜか魅音は怒っていた。粛清対象に、鷹野や富竹だけでなく、圭一たちも含めようとしているようだった。さすがにそれは止めたかった。
梨花「……大丈夫ですよ。猫さんはボクが守ってあげます」
圭一「本当に…梨花ちゃんで……大丈夫なのか…?」
梨花「……ボクが頑張らないと、犬さんも大変なことになってしまうかもしれないのです」
犬さんが大変なことになる。
それは、悟史のことです。
梨花は、この綿流し目明し編においても、抗うつ薬を弁当に混ぜていた。鉄平が、園崎上納金強奪に参加せず、レナパパにつきまとう可能性があったからです。その抗うつ薬の影響によってこのような展開になっているのであれば、その犯人は、悟史と同じような状態に陥ってしまう可能性があった。悟史があのような状態になってしまったことを、梨花はとても後悔していた。だから悟史のようになってしまうかもしれない人を、また作り出すわけにはいかなかった。
梨花は、その犬さんの正体を見極めなければならなかった。圭一たちを粛清しようとする者。それは、この直前、変なキレ方をしていた魅音そのものだと、梨花は思い至った。抗うつ薬の効果が、この綿流し目明し編においては、魅音に悪影響となってしまったのだ、と思ったのです。
圭一「……し、…詩音は?…あいつは…どうなるんだ……?」
梨花「……姉妹猫の妹ですか?にゃーにゃー。……姉猫は怒ってます。妹猫が悪いことをしたので、とても怒ってます。……圭一。…姉猫はとても機嫌が悪いです。…しばらくの間、そっとしてあげて欲しいなのです」
梨花は、綿流し目明し編において、実行犯である詩音のことを、最期まで魅音だと勘違いしていたと思われます。詩音に掴みかかられた直前のシーンも、姉猫にやられていると思っているのですから、それ以降に、実は妹猫のほうが加害者だったと、勘違いを改めることはできないと思われるからです。
そして、だから梨花は、入江の開発したC系の薬を魅音に注射することを狙ったのです。失敗して、返り討ちに遭っちゃいましたけど。
ちなみにですが、拷問狂だの、CS版では冷血女だの、梨花は詩音に対して言い放っていますが、これもつまり、梨花は魅音に対して言っているものなのです。
拷問狂はわかりやすいですよね。園崎上納金強奪の犯人たちに対する仕打ち、鷹野や富竹に行った仕打ち、その拷問の執行の中心にいるのは園崎であり、さらに圭一たちまでそれにかけようってんですから、魅いは拷問したがり屋さんね、って意味です。
冷血女ってのは、悟史や沙都子に対する、魅音のこれまでの態度振る舞いを、梨花はそのように評価しているってことです。レナと同じですね。梨花もまた、魅音が沙都子を救ってくれないことに失望し、血の通ってない冷血女だと思ってたってことです。ま、当然ですね。
最後に、詩音が陥った精神状態について。
幻覚がひどくなって、圭一を殺しにいって、帰りに自殺っぽい事故死をしました。こんな状態になったのは、入院時に受けた薬の影響かと思います。どんな薬あっても、副作用として説明できそうです。最初は演技だったのですから、健常者が精神病のふりをしていたってことですね。ならば、精神病に効く薬を健常者の体に投与したことになるわけですから、当然、副作用が働いたと考えられるわけです。
中でも可能性が高いのは、鎮静剤でしょう。綿流し編では、葛西が鎮静剤を詩音に与えることがありうるような描写がラストになされています。鎮静剤というのは、この頃はベンゾジアゼピン系睡眠薬が最新の薬であり、病院から処方された可能性として一番高いのがこれになるでしょう。つまり、茨城のときのレナとまったく同じということです。レナもベンゾジアゼピン系の薬によって狂っていった。詩音もおそらく同じだったのでしょう。
もともと双極性障害を患っていたことも相まって、処方された薬で精神病が加速しちゃったっていう結末なんですね。
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